第38話 リトルカブで初出勤

 タイトルの通りである。昨日は新しい仕事の初出勤の日だった。


 最寄り駅までの移動手段が、新たなリトルカブの役目だ。早朝にリトルカブを走らせると、10月の始めだとほんの少し肌寒くも感じた。スーツに合わせて使っているビジネスバッグがリアボックスに収まらなかったのは予想外だったが、付属のベルトで肩掛けすることで解決は出来た。


 昨年亡くなる直前の日まで通勤をしていた父も、季節は違えど似たような光景を目にしていたのかも知れない。早朝の田舎の道は、ほとんど車通りはなかった。


 最寄り駅までの所要時間は15分ほどだと思っていたのだが、道が空いていたせいか10分弱で到着してしまった。先日定期券を買った駐輪場へリトルカブを停め、電車へと乗り込む。


 それからなんやかんやがあって約13時間後、駅まで戻ってきた僕は駐輪場へと向かう。リトルカブのすぐ横には、朝停車したときには見かけなかった原付スクーターが一台停まっていた。


 午後8時過ぎ頃の田舎の道は、やはりほとんど車通りがなかった。都会とは事情が違うとはいえ、住んでいる街の衰退ぶりを実感するには十分だった。そんな街中をリトルカブで走ると、時々手の甲に何かが当たるような感触があった。おそらくは目に映りにくい羽虫の群れか何かだろう。


 約10分後に帰宅し、玄関先にリトルカブを停めてワイヤーロックをかける。通勤で頻繁に使用することになるだろうから、リトルカブの駐車位置を変えていたのだ。


 出勤初日で色々と緊張したこともあったのだろう。そこそこ疲労していた僕は「これから毎日こうやってリトルカブに乗るのだろうな」と、ぼんやり考える。慣れるまでは少々大変かも知れないが、家族の生活のためには何とかしなければと改めて思った。


 それにしても、長年にわたって同様にリトルカブを使って最寄り駅まで――というか、電車で都会まで片道約2時間を通勤していた父は、改めて偉かったのだなと思う。ぜひ見習おうとは思うが、生前の父のように雪道で転んで鎖骨を折ったり、駅と自宅の間に一時停止義務違反で警察に捕まったりするのだけは勘弁してほしい。

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