第34話 夕闇を走る
今日は夕方から、リトルカブに乗った。
毎週一回、エンジンをかけてオイルを各部に回すために乗っているのだが、さすがに昨今の暑さでは日中バイクに乗ることがままならない。軽く死ねそうだ、鈴鹿8耐を走るライダーはマジ凄いと思う。
で、日が陰り気温が下がってきた夕方頃からバイクに乗り始めたのだが、今までとはまた違う景色が見られて、これが悪くなかった。
肌にまとわりつくように吹き抜ける風はまだ生ぬるかったが、日中の暑さのことを考えれば心地よい。いつものダム周りの道を走って、そのままこれまでとは違う道を適当に抜けていく。
思えば父が亡くなったのが、去年の7月の末頃だった。なんだかんだでリトルカブを引き継いだのが8月末、それまでに何度か日中リトルカブに乗っていたが、今ほど暑くはなかったように思う。
だんだんと薄暗くなっていく道を走る時、リトルカブのライトは何とも心許なかった。全く先が見えないという訳でもなかったのだが、はっきりと行き先を照らし出してくれるほどの光量はない。傷だらけのヘルメットバイザーに光が乱反射して、微妙に行き先がうすらぼんやり白く見えるのだが、勝手知ったる道だったから問題はなかった。
少々難儀だったのは、虫だった。なにぶん田舎住まいなため仕方がなかったのだが、街路灯がある近くの道を走るときには少なからずバチバチと小さな虫が体中に当たる。オープンフェイスのジェットヘルを使っていた父が、リトルカブに大きめのウインドスクリーンを付けた理由は、これだったのかも知れない。
それでも、いつの間にやら月明かりに照らし出される中、夜の闇の中をリトルカブで走るのはなかなか面白かった。独特の排気音を響かせながら、もう少し、もう少しと走る距離を伸ばしていたが、明日は父の一周忌と初盆があるため、大事を取って帰宅した。
つくづくと思うがこのリトルカブ、スピードは出ないしパワーもないが、何とも言えない微妙な「味」がある。だんだん歳を取ってくると小さくてかわいいものが欲しくなってくるなどといった話も耳にしたが、ほんの少しそれが分かるような気がした。
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