第31話 ハルキタル

 リトルカブを我が家に迎えて、初めての春。


 4月の第一土曜日に、リトルカブで地元を軽くツーリング。今までにも週一回はエンジンをかけて軽く走っていたが、久しぶりにそこそこの時間をリトルカブと過ごした。


 暖かくなってきたので、冬用の防寒具(バイク用の膝掛け)は外した。寒い時期には風よけとして立派に機能してくれていたが、やはり純粋にバイクに乗るには少し邪魔なものだった。こいつを外して走ると、去年の夏頃の感覚と記憶を思い出す。


 片田舎なので、あちらこちらに満開の桜の木があった。個人的には、桜は一番好きな花だ。咲いている姿も、散りゆく姿も。


 桜を植樹した近所の公園からスタートして、川沿いの神社に寄り道し、地元のダム回りを走る。それぞれで「桜のある風景」を写真に撮って、僕は再びバイクにまたがった。


 ダム回りには、観光目的であろうバイク乗りもちょくちょくいた。おそらくはみんな大型バイクに乗っていたように見受けられたが、こちらは原付でトコトコ走る。それもまた一興。


 山奥にある車一台分の車幅しかない峠道を抜けて、もう一つのダム回りへ。そちらは比較的新しくて大きなダムだったので、久々にアクセル全開で走れた。


 走っている最中に、左のバックミラーを見る。つい最近まで後ろが見づらいと思い続けていたのだが、ふとしたきっかけで「ただ単に取り付けがおかしかっただけ」であることに気がついた。原因はたぶん、昔父が冬の雪道で転倒した時にゆがませたからだろう。


 ゆがみを修正する時には父のことを少し思い出していたが、後ろが見づらいのを直せたのは良かったと思う。自分でミラー取り付け部をいじることで、スマホ用のクレードルも案外簡単に付けられそうなことも分かった。


 おおよそ一時間ほどリトルカブを転がしてから帰宅した。冬の間は無給油だったガソリンタンクの中身は、だいたい半分ぐらいになっていた。次にリトルカブを動かしたときには、給油をしておいても良いかも知れない。


 冬の間は少しくすんでいたように見えたリトルカブは、春を迎えてキラキラと輝いて見えた。

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