第3話 素朴な疑問

 リトルカブに試乗した後、ふと疑問に思った。


 父は何故、数ある原付の中からリトルカブというバイクを選んだのか。


 元々エンジニアだった父なので、機械としてのバイクに対するこだわりは、ある程度あったのだと思う。ただ「走れば見た目はあまり気にしない」「なにより性能(特に燃費)が第一」などとも思っていた節は見られる。


 ただ、そうなると同じカブでもスーパーカブ50辺りを選ぶんじゃないかとも思った。何故リトルカブだったのか。


 更に父の性格を思い出しながら考えると、スーパーカブに比べてリトルカブは「タイヤサイズが小さい(スーパーカブの17インチに対して、リトルカブは14インチ)ことからくる取り回しの良さ」や「ひたすらに頑丈」、そして「あちこちが微妙に小洒落たデザイン」に、父なりのこだわりがあったのではないかと推察した。特に最後の一点については、一見デザインにこだわりが無いようでいて案外小洒落たものを好むという、父の矛盾(?)した性格が表れていたようにも思う。


 車にせよバイクにせよ、乗り物はあくまでも「経済的・効率的に移動するための道具」と考えていたようなのだが、生前の父にその意図を聞く機会もなく、今となっては真相は闇の中だ。


 ちなみに僕は同じホンダ・カブの14インチモデルとして、学生時代のアルバイトで「郵政カブ(MD50)」に乗っていたこともあったのだが、郵政カブの方がリトルカブに比べてスピードが出せたように記憶している。全ての配達を終えて空荷になった郵政カブは、文字通り「飛ぶような速さ」で走ることが出来て、田舎町の一番端の地区が受け持ちだった僕が本局に戻るまでのタイムアタックを毎日行っていたことは、四半世紀近くがたった今だからこそ言える若気の至りだ。


 郵政カブは「一般ユーザーが購入することは出来ないモデル」とのことだが、もしも購入することが出来れば、案外父はリトルカブよりも郵政カブを選んでいたかも知れない。郵政カブは結構無骨な見た目だったと記憶しているが、自分が好きなもの(例えば鮎釣りの道具)などには強いこだわりを示していた一方で、あまり興味のないもの(移動手段としての道具である車やバイク)には比較的無頓着だった父だったから「性能が良ければそれで良し」と考えたかも、などと思った。

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