第6話 初めての戦闘

 目の前に約10匹ほど緑色の兎がいる。おそらく、緑兎グリーンラビットだ。


 何故こんなことになったのか。

 今、考える余裕は無いな。


 彼らは俺に向かって鋭い牙を剥け、うめき声を上げている。

 胴体は小さいものの、牙がかなり鋭い。

 素早い動きで連携を取られたら、たまったもんじゃないぞ。

 こう考えている内にも、兎たちはじりじりと距離を縮めてくる。


 体の震えと冷や汗が止まらない。

 俺の体が意図せぬ内に、この状況を拒絶しているようだ。


 俺は魔物と戦ったことが実は一度もない。

 だから、本当はここから今すぐ逃げてしまいたい。

 でも後ろには壁がある。逃げる道などない。


 「やるしかないな。自分のギフトを信じよう」


 俺は持っていた皮の袋から、さっき能力を付与した木の棒と石を取り出す。


 すると、兎たちも戦闘態勢に入ったのか、陣形を整える。


 俺は大きく息を吸い、木の棒を構える。


 「ふぅ‥‥‥」


 シャアアアアアアァ!

 

 兎たちが俺に向かって走ってくる。


 「これでも、くらえぇぇぇぇ!」


 横一列で並んで一斉に走ってきた兎たちに合わせるように、俺は木の棒を横に振り切る。


 ビャアァァ‥‥‥。バンッッ!


 衝撃波によって兎たちは石で作られた壁に叩きつけられた。


 「まだまだぁぁ!」


 俺は追い打ちをかけるように、石をこれでもかと投げつける。


 ビャア! ドゴオォォォォォン!


 ビャ! ドゴオォォォォォン!


 ‥‥‥。ドゴオォォォォォン!


 兎たちの甲高い悲鳴は途中から聞こえなくなっていた。


 「ハァハァ‥‥‥。やったか?」


 石の爆発によって発生した煙で前が見えない。




 少しすると、煙は消えていった。

 俺は石をたくさん投げた場所に近付く。


 ‥‥‥そこには大きな穴以外、何も残っていなかった。


 「おっしゃあぁぁぁぁぁ! 俺の勝ちだ!」


 緊張から解き放たれ、膝から崩れ落ちる。

 興奮で呼吸が落ち着かない。

 記念すべき初めての魔物討伐だ。

 素直に喜びたいところだが、俺には一つ懸念があった。


 不自然なまでに群れている魔物、作りこまれた空間、異常なほどの魔物の発生。

 これらの嫌な特徴が全て当てはまる場所が一つ存在する。


 「ここはもしかして――」


 そう、だ。


 この世界には稀にダンジョンという魔物の巣窟が、何の前触れもなく発生することがある。ダンジョンでは魔物が異常に発生するため、攻略が難しい。だがその分、攻略に成功した時の見返りが非常に大きくなっている。そこで手に入る武器やアイテムは、人智を超えた能力を持っているのだ。


 そのため、ダンジョンの攻略をめぐっての争いが、この世界ではよく起きている。


 争いの種を生まない為にも、発見した場合にはすぐにギルドへの報告が必要なのだが。

 パッと周りを見回したところ、ここのダンジョンには出口が存在しない。

 入り口も、かなり高いところにある。どうやっても届かない。


 さっき初めて魔物と初めて戦ったばっかの人間に、この仕打ちか。


 「俺はホントにツイてないなぁ‥‥‥」


 一難去ってまた一難だ。

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