第48話 迷い仔猫のジャーニー(フシSide:前編)
~フシ視点~
「フシ、溜め息なんてついてどうしたのです!?」
「……え?」
ストラ兄が人族のお城へお出掛けするのを、村の皆で見送ったあと。ボーっとしていたフシに、妹分のクーが話しかけてきた。
ふと周りを見渡せば、皆はもう解散して、それぞれが自分のやることを始めようとしていた。
「溜め息、ついてたかニャ?」
「本当にどうしたのです? フシらしくないのですよ!?」
「フシらしく、ない……」
茶色いフワフワの垂れ耳をペタン、とさせたクーがフシの顔を心配そうに覗いてくる。
「フシらしいって、なんなのニャ?」
クーの大きな瞳に映る人物は、何者にも見えなかった。
ピィやクーと違って、フシは魔族領の出身ニャ。
それも魔族の貴族だったパパと、人族の大きな商家の娘だったママのあいだに生まれた子供。いわゆる種族の垣根を超えた“禁断の恋”ってやつだったらしいのニャ。
パパとママはとても愛し合っていて、お互いに危険な辺境の地を何度も訪れては逢瀬を重ねていたみたい。
それぞれの立場や両親の説得など、数々の障害を乗り越えて二人はようやく夫婦として結ばれた。辺境にほど近い魔族の街に新しく家をつくり、二人で……そのときにはママのお腹にフシもいたから、三人で幸せに暮らそうとした。
だけどそんなときに、人族と魔族の戦争が始まってしまったのニャ。
『私たちはこの街に残ろうと思う』
『この子を置いていくことはできないわ』
パパとママは、それぞれの国へ別れて逃げるよう提案してきた隣人にそう返した。獣人であるフシがいたら、逃げた先でも酷い扱いをされるからニャ。
その数か月後、フシたちが住んでいた街は戦渦に巻き込まれて地図から消えた。
轟々と燃える家、逃げ惑う住人、痛みで叫ぶ兵士たち。逃げるときにフシも足を怪我して、思うように走れなくなった。
もう何が起きているのか訳も分からない中……パパとママは、フシの目の前で死んでいったのニャ。
殺したのは人族か魔族か、それは分からない。分からないし、フシにとってはどちらでも関係ないのニャ。
ただ、フシのパパとママを戦争が奪い去ったという事実は変わらないから。
フシは、パパとママを奪った奴らを許せない。戦争を始めた王族たちも、戦争に加担した兵士たちも、みんな同罪なのニャ。
そのうち魔族の王と人族の勇者が戦うことになっていたけれど、どっちが勝とうと構わない。いつかそいつらをまとめて、フシの自慢の爪で引っ搔いてやるのニャ。
そう願うことだけが、何も持たない空っぽなフシの生きる理由になっていた。
「お前も行く当てがないのかニャ?」
不自由な足で辺境をひとりで
何にも縛られない自由な心を持ちながら、空を飛ぶ夢と翼を奪われた鳥獣人のピィ。
誰も寄せ付けない破壊の力で孤独になり、誰かに愛されたいと願う心優しい犬獣人のクー。
そんな二人と出逢ったおかげで、フシも生きる意味を見出せた気がするのニャ。パパとママを助けられなかった分、今度は妹たちを守ろうって思えた。
だけど、フシの心は……もう……折れそうになっていたのニャ。
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