第49話 迷い仔猫のジャーニー(フシSide:後編)
「ストラ兄さんが帰ってきたら、僕と一緒にケルベロウシの世話をするであります!」
「あたしも魔道具を使うの上手くなったから、お兄ちゃんと一緒にお空を飛びたいのー」
可愛い妹たちは、新しくできた兄貴分にご執心ニャ。ストラ兄は強くて頼れるし、頭も良いから妹たちも懐いているのニャ。
だけどフシは、そんな楽しそうな輪にあんまり入れないのニャ。見ていると胸の中がモヤモヤしてくる……フシはきっと、ストラ兄に対して嫉妬しているのニャ。
二人に出逢ってから、お姉ちゃんとして頑張ってきた。
それが今の自分にとっての役目なんだって。それがフシの生き甲斐だって思ったから。
でも今は違う。
ピィやクーはフシじゃなくて、ストラ兄の妹になっちゃったのニャ。
「フシなんて、もう要らない子なのニャ……」
「あれ? フシちゃん、どこに行くの?」
「フシのことはもう、放っておいてほしいのニャ!」
考えていたら余計に、この場にいるのが耐え切れなくなった。リディカ姉に掛けられた言葉を背に、部屋を飛び出した。
領主館を出て、村の中をトボトボと歩く。
「この村は以前の寂れたプルア村じゃないのニャ。フシの居場所なんて、もうどこにもないのニャ……」
雨風を防いで夜を過ごした廃墟も、魚を捕まえようと飛び込んだ川も。どこを歩いても三人で過ごしたあの日々が、ストラ兄に上書きされてしまっている。
ぜんぶ、ぜんぶ。
「う、うぅ……フシは、どうしたらいいのニャ……」
視界がジワジワと
何年も前に怪我した脚は思い通りに動いてくれなくて、何度も転んで泥だらけになりながら。
ふと気がついたときには、村から離れて森に足を踏み入れていた。
「あれ……なんでこんなところに?」
自分でも不思議に思いながら、お先真っ暗の森の中を
辺りが暗くなってきたことに気が付いて空を見上げれば、真っ黒な雨雲が木々の隙間から見えた。
「……帰らなきゃ」
森は危ないから、絶対に一人じゃ入っちゃダメって言われていた。勝手に飛び出してしまったし、きっとフシのことを心配しているはずニャ。
でも、心細さと寂しさと悲しさで胸がいっぱいで、足取りが重くなってしまう。
そんなときだったニャ。
突然フシの前に、巨大な影が現れた。
――グァアアアアッ!!
「ひっ!?」
フシの身長の三倍くらいはある、大きな蜘蛛。
それが今にも襲いかかろうと、脚を大きく持ち上げていた。
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