第27話 魔王様、嫉妬する
それで、これはどういう状況なんだ?
家を建てたり柵を修繕したりと、なにかと木材が
肥えきった勇者の体に四苦八苦しながらプルア村に帰ってくると、そこには温泉に浸かるクソ白玉――もとい、守護聖獣に
「それが、私にも何だか……」
「姫様にも分からんのか」
「私が来たときには、フシちゃんたちがミラ様にこうしている状態で……」
俺より先にその現場にいたリディカ姫に訊ねるも、彼女も困惑しているらしい。
ちなみに、彼女は聖獣を『ミラ様』と呼ぶことにしたようだ。伝説の聖獣アルミラージから取ったんだろうが、本人(本兎?)も気に入っているようなので、俺も深くは追及しないことにした。
そんなわけで、俺は聖獣に直接事情を聞くことにする。
「おい、これはどういうことだ?」
『ん~? いやなに、この子たちはなかなか見所があると思ってな? さっそく我の騎士に任命したンゴ』
「えぇ……騎士の任命する基準、やっすくない?」
そんな簡単にホイホイと騎士にさせちゃって、大丈夫なのか?
いや、まぁ。ウチの三人娘たちは可愛いから、気に入るのは当たり前なんだけど。
そんな事を考えている間に聖獣は、『そこそこ、もっと強くゴシゴシ
「ねぇ、ストラゼス様。こうしてみるとモフモフ人口が増えましたね!」
「たしかに……」
猫獣人のフシ、鳥獣人のピィ。犬獣人のクーに守護聖獣のミラ様かぁ。
もふもふが大好きな俺にとっては、まさに天国のような場所だ。しかも(一人を除いて)皆が良い子だっていう。
「本当に、余計な奴が現れやがって……」
嫉妬で拳を握る力がギリィ、と強くなる。
さっさと邪神とやらを解決して、聖獣様には元の家にお帰り願おうかな。
「ただ、あの……ストラゼス様」
「ん、どうしたんだ姫様」
「実はさっき、お腹を空かせたミラ様が、食事を寄越せと申しまして」
あぁ、それでリディカ姫が聖獣のところに居たのか。
あれ? でも彼女は手元に何も持っていなかったな。食事はもう済んだのか?
「いえ、実は何が食べたいかお訊ねしたところ、『気分で決めたいから、食糧庫に案内してほしいンゴ!』と。それで……」
「ま、まさか」
「味見という名の爆食いが始まってしまいまして。現在、夕飯分の食材もない状態で……」
そう言って、リディカ姫が申し訳なさそうに頭を下げる。
な、なんてことをしてくれやがるんだ……このポンコツ聖獣!
結局この日の夕食は、俺がティリングの街へ転移して買い出しする羽目になってしまった。
◇
翌日。
俺は村から少し離れたところにある森に、再び来ていた。
昨日に引き続いてなので、森歩きにもだいぶ慣れてきた感触がある。余裕があれば、ゆっくり森林浴でもしたいところなのだが――。
「あんっのクソ白玉兎め。少しは遠慮ってモンを知りやがれ!」
アイツはウチの食糧庫を食い荒らした挙句、しっかり夕飯は別腹で食べやがった。
追加で食材を買い足す苦労を味わった俺は、ストレスを発散するように、森で狩りに勤しんでいるというワケだ。
「このっ! 喰らえっ!」
『ギュイッ!?』
俺の投げた小石が、枝に擬態していた魔物の脳天を貫く。よし、肉ゲットだ。皮は街で売れば、いくらか金になるだろう。
……ただ、まぁ。一人だったら十分な量の肉になるが、これじゃ全然足りないだろうなぁ。
というわけで、再びトテトテと歩き出す。こうして太った俺が歩いていると、森を
「もうちょい奥に行ってみるか……ん?」
そう呟くと、俺は腰にぶら下げていた剣の柄を握った。
視界の先で何かが動いた気がする。しかもこっちへまっすぐ向かってきているな。それも、なかなかの速さで。
「いいだろう。相手が何だろうと、白玉兎のエサにしてやるぜ」
魔力を流していき、いつでも戦えるように準備をする。
そして敵は俺の間合いへと入り、その姿を現した――。
「お、お前は……!」
「貴様は――」
森の奥から出てきたのは、魔物ではなかった。
魔王軍四天王、かつて俺の部下だった火のクリムがそこにいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます