第19話 魔王様、ビックリです


 そうしてフシはクーの手を掴み、半ば無理やりに村の畑跡地へと連れてきていた。


「フシ、でも僕は……」

「本当のクーは、才能に溢れているのニャ。過去に囚われてその力を活かさないのは、あまりにも勿体ニャイ。世界の損失なのニャ」


 なんだ? 過去に囚われて??

 フシの言いぶりだと、クーには何か隠された力があるってことなのか?



「ま、論より証拠ニャ。ストラ兄、クーに畑を耕させてみるのニャ」

「耕させる? ……って、彼女は何も持っていないぞ?」


 クーはクワを持たず、一人でポツンと畑の中に立たされている。こんな状態で、いったい何をさせる気なんだ?


「いいから、思いっきりやってみるのニャ」


 やけに自信満々にフシは言う。やっぱり何か考えがあるらしい。


 不安に思った俺がクーに向き直ると、彼女はコクッと頷きで返した。



「……いきます!」


 クーはシャツの袖をまくった後。カラテの構えのように両拳を腰元に添えて「すぅううっ」と息を吸い始めた。そして――。


「はぁあぁああああっっ!!!!」


 右の拳をスッと後ろに引いたかと思いきや。その拳を勢いよく地面へと振り下ろした。



「なっ――!?」

「きゃああっ!?」


 その瞬間。大きく地面が揺れたかと思えば、草まみれだった畑の土がモコモコと膨れ上がり――ドゥンと大きな音を立て、ぜた。


 砂煙が巻き上がり、数秒後にボタボタと降り注いでくる土や草たち。飛び散った土や石が俺の頭にぶつかり、目の前に星が散る。


 だがそんなことはどうでもいい。

 なんだこの威力は!? ていうかそもそも何が起きた!?



「おぉー、すごいのニャ。やっぱりクーの怪力は恐ろしい威力なのニャ」

「いやいやいや!? いきなり自分の拳で畑を掘り起こすなんて、どうかしてるぞ!?」


 慌てて俺はクーの元に駆けよる。

 彼女の前方はガッツリとえぐれて、巨大な穴クレーターができていた。そんな俺のもとにフシたちも駆け寄ってきて、四人で一緒に巨大な穴を見る。かなり深いな……どこまで続いてるんだ、この穴。底なんて、どこまであるのか見えない。先日のベノムワームもビックリの穴掘り性能だ。


 その穴の前にクーがひとり、平然と立っていた。しかも俺の心配をよそに、彼女は恐ろしい笑みを浮かべている。


「クー! 無事か!?」

「ストラ兄さん」

「お、おぉ……良かった。どこか怪我はないか?」

「大丈夫です。それよりも……」


 俺の心配を余所に、彼女は土と草で汚れた手で、自らの拳を見つめている。


「ふへっ……き、気持ちいいのです」

「え?」

「獣人を虐げるクズ共に遠慮せず、己の力を存分に振るえる……ふひっ、やっぱり爽快なのです」

「ヒッ!?」


 両手を交互に握っては開く、という行為を繰り返しながら「にへらぁ」とだらしなく笑うクー。


 俺に向けてくれた、あの控え目な笑顔はどこへ消えたんだ!?


 え……これがクーの正体?

 確かにフシの言っていた「凄い力を秘めている」は、本当だったみたいだけど……。



 いや、今はそれどころじゃないぞ。


「耕すのは一旦中止! これじゃ畑がメチャクチャだ!」

「んニャ? たしかにやりすぎたかもだニャ」


 再びクーのそばに駆け寄った俺に、フシが後ろから言ってくる。

 草も無ければ石も飛んでいったよ。ついでに肝心の土もな!


「はぁ、仕方ない。魔法で土を戻すから、クーはそこをどいてくれるか」


 いまだ不気味な笑いを浮かべるクーの背中に触れようとした、その瞬間――。


「な、なんだこの地響きは!?」


 地面が激しく揺れる。だがそれは地震や自然災害という類のものではない、何か別の大きな力がやってくるような……。


「こ、これは……!?」


 

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