第18話 魔王様、キモいです


「うっわ、なんですかそれ」

「気持ち悪いのニャ」


 テーブルの上に広げた魔族領産の種を、気色悪そうにフシとクーが見ている。まぁ見た目はウニや黒いイガグリだしな。


「どんなに環境の悪い場所でも元気に育つ野菜で、魔族領では大人気だったものだ」

「これが……どんなふうに育つんですか?」

「黒い触手みたいな蔓が地面を這い、豚の頭みたいな果実が生るんだけどな。血のように真っ赤に熟すと、夜中に一斉に叫ぶようになるんだ」

「えぇ……」


 リディカ姫が数歩、後退あとずさっていく。まぁ無理もない、俺だって初めて目にしたときは怖かったからな。



「でも味は美味しいぞ? 特に生だと驚くほど甘くてジューシーでな……」


 魔族領は過酷な環境が多く、普通の作物が育ちにくい。

 その代わりに半魔物化したような植物が、たくさん生息しているのだ。しかもそれらはとても強く、生命力に溢れている。



「その名も『悪魔の肉饅頭デビルヘッド』っていうんだけど」

悪魔デビル……まがまがしい名前なのニャ……」

「本当に食べても大丈夫なものですか?」

「もちろんだ。むしろ栄養価が高いから、積極的に食べなきゃいけないくらいだぞ」


 そんなデビルヘッドをとし、人族領に広めるための農地改革。これを目的のひとつに掲げたいところだな。



「さすがに、それは……」

「まぁ試しに一度育ててみようぜ。きっと気に入るはずだからさ!」


 デビルヘッドを使った野菜栽培が成功すれば、村の食料事情もかなり良くなる。


 それに、もしかしたらプルア村の特産となるかもしれないのだ。だからこそ上手く栽培できるといいんだけどなぁ。



「あの、ストラ兄さん……」

「ん? どうしたんだクー。珍しく元気がないな」


 クーがやけに大人しい。

 いつもなら俺の提案に、真っ先に賛成してくれるのに。どこか具合でも悪いのだろうか? 茶色い犬耳をペタンとさせ、俺の目をじっと見つめている。


 俺が首を傾げていると、クーは遠慮がちに言ってきた。



「ピィみたいに、僕も何かお仕事が欲しいのです……」

「お仕事?」


 なんで急にまた……と思っていると


「僕はピィみたいに計算はできないし、フシほど器用でもありません。クーは何を頑張れば、ストラ兄さんのお役に立てますか……?」


 そういえば。畑に何を植えるかを考えてばかりで、クーのことがすっかり抜けてしまっていたな。フシもピィも、俺が何も言わなくても手伝いをしてくれるから……つい甘えてしまったのかもしれない。


 クーにはクーにしか出来ないことだってあるはずだ。それを見つけてあげないとな……。


「んー、そうだなぁ……」


 俺が腕を組みながら悩んでいると、フシと目が合った。


「ふっふっふ。クーよ、今こそ自らに掛けていた封印を解くときが来たのニャ」


 封印……ってなんだ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る