第7話 魔王様、調理開始です


 出逢った獣人三人娘に「メシを食わないか」と提案したところ。三人はちょうどいい場所があると言って、俺たちを食堂のキッチンへと案内してくれた。


 そこはお城と比べるとどれも質素な設備ではあったが、しっかりとした丈夫な造りのものだった。



「本当にご飯を作ってくれるのニャ? この村の食料はもう野菜クズひとつ残っていないのニャー」


 雷のようなギザギザ尻尾を左右に振りながら、猫獣人のフシは金色の真ん丸な瞳をこちらに向けてきた。


 彼女は白と黒のブチ柄をした髪がキュートだ。そして三人の中でも一番小柄なのだが、どうやらお姉さん的ポジションらしい。

 年齢も一番上なのか?と聞くと、「三人とも歳は覚えてないのニャ!」と返された。



「フシの言う通りなのです、野菜どころか麦粒一つ残っていないのです!」


 続いて発言したのが犬獣人のクーだ。

 彼女は耳が遠いのか、声がやたら大きい。

 だが根は真面目で良い子そうだ。



「おじさん、何も持ってないー」

「だいじょうぶ。魔法の収納バッグを持ってるから。……あと俺はお兄さんな。まだおじさんって歳じゃないから」

「おじさん、できるおじさんだったー!?」


 両手をパタパタとさせながら、俺の周りをピョンピョンと跳ねまわる元気っ子。


 彼女は鳥獣人のピィ。アホの子っぽいというか、あの。俺の話、ちゃんと聞いてました?



「ほら、今から食材を出してやるからな」


 口で言っても信じてもらえなさそうなので、さっさと料理を作ってしまおう。見た目の倍は入る収納バッグを調理台の上に置くと、ガサゴソと中を漁り始める。


 これは生前の勇者が持っていたのをパク……借りているものだ。

 魔王城から人間族の王城まで旅をしていた間に、色々と詰め込んできた。一人で食べるなら一週間は十分に持つ量があったはず……。



「ふおぉおおおっ!? 魚! 魚なのにゃ!」

「肉もあるのです!! 骨付きなのです!!」

「虫はないのー?」


 三者三様のリアクション。

 宝石でもみるかのように、目をキラキラさせながら机の上の食材を見つめている。


 そしてごめんピィ。さすがに虫は無いんだ……。



「好き嫌いは分からないから、取り敢えず適当に作ってみるよ。……それまで、コイツでも摘まんでおいてくれ」


 果物の詰め合わせをいくつか出しておく。

 すると伸びていた6本の腕がそちらに向いた。危なかった、このままじゃ生のまま食材が喰われてしまうところだった。


 そんな光景をリディカ姫は、俺の隣でクスクスと笑いながら眺めていた。



「ふふふ、食いしん坊さんたちですね」

「それだけ貧しい思いをしていたんだろうな」


 これなら皮を剝くだけですぐに食べられるだろう。しまったな、王城にあったフルーツも拝借してくれば良かったか。



「さて、俺は調理に入るが……リディカ姫はどうする?」

「すみません。私は料理を一度もしたことがなくて……」


 あー、まぁそりゃそうか。

 他の姫と比べて扱いが悪かったとはいえ、姫様だもんな。じゃあ子供たちの相手でもしていてもらうか?


 だがリディカ姫は少し恥ずかし気にしながら、でも――と続けた。



「これからは姫ではなく、領主の妻として生活を始めるわけですし。お手伝いの仕方から教えていただけないでしょうか」


 なるほど、そういう理由であれば断る理由はない。それにしてもこの子、意外とガッツがあるじゃないか。


 俺はリディカ姫を調理場へと招き入れると、彼女のために簡単な料理教室を行うことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る