第3話 魔王様、出発です
「なんで選んだのかって、迷惑だったか?」
質問に質問で返されたのが嫌だったのか、リディカ姫は少しだけ眉をひそめてから、ゆっくりと首を横に振った。
「迷惑だなんて、そんなことはありません」
「じゃあ何が不満なんだ?」
「その、私に求婚した理由です。私はミレーユお姉様と違って美しくないし、爵位の低い母の生まれだから……」
ああ……そういえば王様も去り際に「本当に良いのか?」って顔してたしな。
「でもさ、なんでそんなこと気にしてんの?」
「え?」
俺はリディカ姫の目をジッと見ながら言葉を続けた。
「別に、親が誰だろうと『この子とは結婚したくない』ってことはないさ。もちろん人によるけど、少なくとも俺にとってはな」
貴族とか王族には家柄が大事なんだろうけどさぁ、思考が一般市民な俺には正直どうだって良い。
いやまぁ、逆に庶民の俺が『王族と釣り合わない』とかって言われたら、返す言葉なんてないんだけどさ。
「それにミレーユ姫は騎士団長とデキてるんだろ?」
「えっ、どうしてそれを!?」
うーん、騎士団長が姫を連れてきたときの雰囲気とか?
騎士団長、終始俺のこと睨んでたもん。絶対に俺のこと、殺したいとか思ってるよアレ。
「だからリディカ姫も、少なくとも俺相手に引け目を感じる必要は無いぞ」
「……そう、ですか」
俺の言葉に、ようやく彼女はホッとした表情を見せた。
「それにリディカ姫だって美人じゃん。ミレーユ姫とはまた違ったタイプの」
そう言うと、何故か彼女は顔を赤くした。
「……か、からかわないでください!」
「いや、別にからかったつもりは……」
いや違うわコレ。照れてんだわ。どうやら彼女は褒められ慣れてないらしい。
そんな反応をされると……なんだろう、もっと褒めたくなるな!
「……なんだか、以前に聞いていた貴方の印象とはだいぶ違いますね」
俺が褒めちぎり、彼女が怒るというのを何度か繰り返していると、リディカ姫が小声でボソっと呟いた。
「ん、そうか?」
「はい。勇者ストラゼスは無類の強さを誇る。しかし性格は極めて傲慢で、己の覇道を妨げる者に対しては容赦しない……と
「あー……なるほどね」
たしかに彼女の言う通り、俺――というか、勇者の評判は酷いものだ。
いわく、自分が強くなるためには、味方の犠牲もいとわないとかなんとか。アイツのために泣かされた民衆や兵も多いという話は、遠く魔族領にまで届いていた。
実際に魔王城で戦ったときの鬼気迫ったアイツの表情は……正直言って、魔王の俺も恐怖を感じたほどだった。
「でもこうして実際に会った貴方は、とても優しい人のように感じます」
「そ、そうか?」
「はい。少なくとも私の目には、そう映りました。もちろん、まだ気を許したわけではありませんけど」
そう言ってはにかむリディカ姫は、お世辞抜きでとても可愛らしい。
ああ……ダメだわコレ。なんかもう、めっちゃ嬉しいんですけど!
そんな可愛い笑顔で言われたら、お兄さん照れてしまうよ?
ていうかどうしよう。今の俺は勇者の体を借りた魔王だ。最初よりも印象が良くなっているのは喜ばしいのだけど、バレたときの反動が怖い。
……少なくとも、妻となるこの子には正直に話しておこうか。
そう思って口を開きかけた――その時だった。
「――ッ!」
「ストラゼス様? 急に廊下の方を見て、どうかしましたか」
廊下に居る誰かがこちらの様子を窺っている。それもどす黒い殺意をまとって。
誰か勇者を
騎士団長か、また別の派閥か……。こりゃあ、ちょっと面倒だぞ?
「リディカ姫、今からハネムーンにお誘いしても?」
「はい、分かりました。……え? ハネムーン?」
部屋の外からノックの音が聞こえてきた。彼女に説明している暇はなさそうだ。準備もなく、慌ただしい出発になるのは申し訳ないが――。
「ちょいとお体を失礼」
「えっ、ちょっ……きゃあっ!?」
俺はソファーに座るリディカ姫を抱きかかえ、転移魔法の発動を始める。
やっぱり人間の貴族社会は面倒だ。
これからは、辺境の地で平和なスローライフを目指そうじゃないか。
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