爪切りを失くして
花火仁子
爪切りを失くして
私たちはずっと、選んだり選ばれたりの繰り返しで、もう誰も選びたくないし、もう誰からも選ばれたくない。
例えるならば、爪切りとの関係くらいでいたい。選ぶ選ばれるなんてなくて、必要になる。いつでもじゃなくて、時々、定期的に。
彼氏彼女とか、夫婦とか、浮気とか、不倫とか。わざわざ名前をつけるから、関係性に名前が欲しくなる。全部「恋」なのに、それで満たされないのは何故だろう。もう選んだり選ばれたりしたくないはずなのに。
そんなことを考えながら、夜道を歩いた。家の中で爪切りを失くしてしまって、探すのが面倒になり、最寄りのコンビニへ買いに行く。
コンビニの棚。爪切りを探す。あった。手前の物を手に取ると、次の爪切りが顔をだした。私の手に握られた爪切りは白。顔をだしたのは黒。これは面倒なことになってしまった。白と黒の二種類から、私はどちらかを選ばなければならない。ダルそうにレジに立つ店員さんから早く帰ってくれないかと言わんばかりの視線が送られてくる。あぁ、どうしよう。
私は家に帰った。袋の中からコンビニで買った物を机の上に出す。白い爪切りと、黒い爪切り。その二つ。私はどちらかを選ぶことができなかった。一息つき、爪を切ろうとして気付く。白と黒、どっちの爪切りで爪を切るか、選ばなければならないことに。
「結局、爪切りでも、選ばなくちゃ、選ばれなくちゃ、いけないじゃんか」
私はため息をついた。
爪切りを失くして 花火仁子 @hnb_niko
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