週末、興味のない本をひとまず五十ページだけ読んでみませんか。

 講座をやっていたとき、生徒さんとこんな会話をしました。

「僕は毎日一冊本を読むと決めています!」

「へえ、すごいね〜」

 考えてみたら、十代二十代のとき、がむしゃらに読んでいたもんだよなあ、などと嬉しい気持ちになりました。

「とにかくたくさんラノベを読んでます!」

 なるほど。

「だったら、明日はラノベじゃないものを読んでみな」

 そのとき、「えっ?」という顔をされてしまいました。彼は、自分の好きなもの、書きたいジャンルが決まっている。だからこそ、深く深く追求したい。

「でも、僕はラノベが書きたいんです」

「だからこそ、たまには読んでみたら。無理だなって思ったら、途中でやめていいから」

 時間の無駄じゃないか、と表情が語っていましたが、それだけ伝えました。

 さて、彼とはそれ以降に読書について話す機会がなかったのですが、真面目な人なので、いちおうは読んでくれたと思います。

 人は、見たいようにしかものを見ません。「自分は不遇だ」と思ったら、そういう目線で見ています。多分自己啓発本などでは、無理にでもポジティブでいればどんどん環境が変わってくる、とか語られていることです。

 そして、自分の視野は狭い。圧倒的に狭い。

 時間がない、好きなものを読みたい。もちろんそうです。ずっと嫌なものを読め、なんて言いません。図書館で借りればタダです。ブックオフや古本屋さんで百円で売っているもので構わない。自分のあまり得意でないジャンルの本を読んでみる。

 ……個人的意見としては、どんな形で読んでくれても著者は嬉しいものですけれど、わざわざ「図書館で読みました」「ブックオフで買いました」とお伝えするのは、控えた方がいいでしょう。謎の戦いが起きる時もあります。

 ああ、そうそう、昔知人が芝居を観にきてくれ、と連絡してきたので、「だったら俺の本も買ってよ〜」とノリで言ったら、「ブックオフで十円で売ってましたから買っておきました〜、得しました!」とのちほど連絡が。

 へーっ、十円で売ってたんだ。得してよかったね。いやこれ以上は言うまい。しかもたぶんあいつ読んでないよな〜。再びブックオフ行きかな〜。


 バンジージャンプをするなんて狂気の沙汰だ、と思ってみたけれど、やってみたらたいしたこともなかった、富士山なんて登れるわけないと思っていたけど、ご来光を見ることができた(これは僕)。ちょっと違うことをすることで、これまでのことを俯瞰して見ることもできる。

 相性のいい作品ばかりを耽溺していると、安全すぎる。なので、たまには違うものを読んでみる。好きなものをより追求するために、比較するために読んでみる。

 例えば僕は、山田風太郎の忍法帖が好きなのですが、他の時代・歴史小説は得意ではありません。でも、たまに池波正太郎の小説を読むと、「あ、この切れ味。あ、この反転、オチの付け方、すごい!」と感動します。司馬遼太郎『燃えよ剣』は食わず嫌いでしたが、仕事そっちのけで一気に読んでしまいました。

 よく、冒頭に「事件を起こす」「キャラクターを立たせる」「ミステリー要素」「謎」は必要、それらで読者のページを捲らせる。などと書いてあるけど、たしかにそうかもしれない。

 いきなりクライマックス!?

 何か気になる。

 魅力的なキャラクターって、実はかっこいいとか頑張り屋なだけでないんだ。

 そんなこと、「指南書」を読んで頭ではわかっている。さすがです。

 でもこれは、しっかり実感するべきなんです。起承転結の作り方や、展開の仕方も、好きな本よりも冷静に、ちょっと穿った目で眺めることができるはずです。

 なので、週末、興味のなかった本を、読んでみませんか? 毎週しろとは言いません。一回、あるいは煮詰まったときに。

 分厚い本でなく、薄い文庫本を一冊。

 薄い文庫本っていうのはなかなかいいものです。まず威圧感がない(笑)。そして、なんとか読み通せそうな気がする。もちろん途中で投げだしたって構わないです。でも、冒頭だけでも読んでみると、なにか面白い発見があるはず。

「あ、書き方おんなじじゃん」

「あー、なるほど、こういうふうに煽ってるわけね」

 などなど。宣伝する気もないですが、カクヨムでも近代文学の名作がありますよね。とりあえず、一作読んでみる。あ、これだったらタダだ。


 以前noteのほうに、「いまの自分になるために読んだ100冊」というリストを載せました。その100冊を繰り返し読んできましたけれど、それ以外の、選ばなかった作品のほうが、膨大な知恵を教わった、ということも言えます。

 だいたいの本って、それなりに面白いところがあるもんです。なのでぜひ、休みの日のちょっとした空き時間に読んでみてください。

 小説じゃなくても構いません。自分の興味のなかったジャンルの初心者向けの本を読むことも、新たな発見やアイデアを掴めることがあると思います。

 僕は完全に文系人間なんですが、たまに理系の新書を読んだりします。流し読みをして、読み終わったときもぴんとこなかったとしても、なにかのネタとして、頭の奥底にその情報を入れておく。たまに突然、思い出したりして、それをそのまま作品に組み込んでみたら、なぜか詰まっていた箇所がすんなり流れた、なんてこともしばしば。

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