女性三人を主人公にした話には「いま」が浮かびあがる。

 現代小説を書く、自分より年下の人物たちを主人公にする。

 ある恋愛小説を読んでいて、「これはいまどきじゃないな」と呆れたことがあります。「これはあんたの青春時代の話だろ、あるいは青春時代の悔いを小説で解消しようとしてるだろ」と。もちろんときめきがあるならばそこそこ楽しく読めるでしょう。しかし、どうも古臭いと感じる。そんなことがありませんか? これはどういうことでしょうか。

 多分その作者は、素直すぎるのです。ま、古いものは安全なのですが。

「この気持ちはみんなに伝わる」

 もちろんそうです。恋する気持ちは普遍的です。でも、細部が、いまではない。逆にそこが気になるということは普遍に至っていない。


 現在、若い人たちはファッション雑誌を読みません。

 かつて副都心線に乗っていた時、渋谷駅で乗ってきた女性たちが全員、当時流行だった「ワンピースにライダースジャケットを肩がけ」していたときがありました。モテファッション、なのか? そんな笑える状況はない。

 いまはインスタグラムでチェックする人が多い。するとインスタは、似た画像をおすすめしてくる。そうやって、それぞれが突き詰めていく。そして昔のように、ハイブランドだから、有名だから買う、というのは少ない。かわいいならそんなものは気にしない。僕だったら「そのブランド昔はダサいって言われてたよな〜」なんてものも、気にしない。

 もうすでに、人は自分はどういう人間か、表現している。ゴスロリとかV系が好きな人、というわかりやすいレベル以上に。

 なのでファッションを描写するときも、もうそれはその人の個性を的確に表現することになります。

 僕はよく、人物の履いているスニーカーのブランドを書きます。コンバースのオールスター、VANSのオールドスクール、はたまたビーサン。着ているもの持ち物で、なんとなくの空気感が表現できるのではないか?

 綺麗なオールスターを履いている男の子と、汚いオールスターを履いている男の子、そこにはなにか違いを感じる。

 もうこれは、観察するしかないです。電車に乗っているとき、街を歩いているとき、どんな格好をしているか。そして想像してみる。この人はどんな人か。なかなか楽しいものです。


 いきなりですが、あなたが女性三人を主人公にした物語を書くとしたら、どんなことを悩んでいて、最後どういう結末を迎えると思いますか?

 実は女性三人が主人公で、それぞれの幸福、成長を描く作品というのはたくさんあります。古くは山田太一のドラマ『想い出づくり』、最近では東村アキコのコミック『東京タラレバ娘』などです。有吉佐和子や田辺聖子も書いています。

 一番有名なのはやはり『セックスアンドザシティ』でしょうか。こちらは四人ですね。でも同じタイプの物語だと考えていいでしょう。名作、篠田節子『女たちのジ・ハード』も同じものですね。

 なぜ三人かというと、ちょっと姑息なことを書きますが、会話していて対立できるからです。二対一に意見が分かれる。あるいは三人とも意見が違うように。

 それぞれ性格が違うけれど気の合う三人が、それぞれの仕事や恋愛の悩みを抱えながら、結末には(いちおうの)彼女たちなりの現在の幸福を目指す。

 そんな物語を考えてみます。

 叶わない恋愛(不倫とか)や仕事の悩みを書けばいいんでしょう?

 と思われるでしょう。

「そんなもんいっぱいあるじゃん」

 でも、現代を生きているあなたが書いたら、違う話になるでしょう。

 男女間で現在注目されているもの(パパ活、ネトラレなど)は昔からあっても、至る流れは日々進化しています。パートナーとセックスレスだったとしても、昔といまでは捉え方が違う。

 マッチングアプリをどう扱うか。いいものとするか悪いものとするか? 作家の個性や考え方があらわれそうです。恐れず「わりといいものかも」「あんなもの!」と両方の視点を持ちながら書いてみる。

 そうそう、三人の人物うち何人が結婚するでしょうか? これはそのとき書かれた時代の気分がきっと反映されます。「結婚をしなくてはいけない」という脅迫じみた世間の目があるときと、現在の「自分らしくあっていい」と、いちおうは言われている時代(かといって裏では別にそれほどひらけていない)では、プロセスも結論も変わっていきます。現代の方が、パートナーと暮らす選択をするほうが賢いかもしれませんね。とにかく金がかかりますから。

 学生時代、まわりがやたら同棲するので、「なんでみんな同棲すんのかね〜」と世間話をしていたとき、友人が「金がないからでしょ」とばっさり斬っていました。たしかに、同棲って突き詰めればそんなもんです。愛とか以前に現実問題への対処だったりします。

 婚姻届を出すか否か、という単純な結婚すればハッピーとは違う問題を抱えるでしょう。

 同時進行の現代が舞台の作品のとき、どうやって「リアル」を描くか。悩ましい問題です。旧世代は依然として「結婚の重要性」を説くでしょう。もちろん、子供が欲しい、安心したい、という気持ちだって、ありますよね。一人じゃ老後が心配。愛情の問題ばかり気にしてしまいますが、さりげない現実的な問題へのアプローチこそ、いまのありようを伝えてくれます。

 そもそもいま、スマホによって連絡がすぐにとれてしまう。これって恋愛小説では「すれ違い」ができにくい。ロミオとジュリエットはいまなら死なないかもしれない。

 どうやってスマホを人物たちから取り上げるか、ということを練った作品だってあります。ミステリなどで、電波が通じない状況をつくったりして。

 固有名詞や今風の言葉遣いももちろんいいのですが、オーソドックスな設定で、書いたとしても、きちんといまを眺めていれば、その作品は新しい物語になるはずです。

『セックスアンドザシティ』は四人中三人が結婚しました。いま配信されている続編で、新たな展開を見せてはいますが、あれだけ恋と仕事を楽しんできた彼女たちも、「愛する人と永遠の愛を誓うこと」を選びました。もちろん最後はどんな結末を迎えたとしてもいい。幸せな結婚は、誰だって望んでいるし。現在を生きる人々を描くのは、結末ではなく、過程です。

 無理に素っ頓狂な設定を考えなくても、現代やリアルは描くことができます。あなたがきちんといまを見ていれば、あなたなりのオリジナルのいまを舞台にした作品が書けるはずです。

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