一章 婚約破棄の手続きはお済みですか?④
「どうもありがとう。
この小さな町はヴドゥーという、旅人や移動者を客とした宿泊街ともいえる場所だった。
ネピアに一人で向かうことを決めたパトリシアは、カイルと共に移動手段についても話をしていた。その時に
目当ての宿には
女性で一人歩きをするような貴族などいない。比較的地味な
(色々と覚えることも多そうね……)
少しばかり足を速めながら、パトリシアは宿へ向かう。明るい時間に到着するよう合わせた
建物に入り自身の名を名乗ればすぐに
家族連れの客が多いらしいこの宿では使用人が常に宿の中にも待機しているため過ごしやすい。貴族が泊まるには質素すぎる作りではあったが、パトリシアとしてはむしろ今の自分に合っていて好感を
「セインレイム様、
パトリシアが一人で泊まることに疑問を抱いたのだろう。確かに、本来であればメイドの一人や二人は付けて
「……今日は事情があって
「
特に疑われる様子もないままパトリシアは部屋に案内された。
一人で
「何かございましたら、ご用命ください」
「ありがとう」
深々とお
これを持って行けと最後の最後に押し付けてきたカイルの
「彼には分かっていたことなのね……経験の差だわ」
貴族の感覚が根付いているパトリシアは、
パトリシアにしてみれば、今着ている服も大人しめで平民と同等の服だと思っていた。けれどそれは思い
取り出した一枚のワンピースは布の素材からして安っぽく
「…………
どれだけ
たとえ手肌が美しくあろうとも、両親にさえ金銭の価値でしか存在を認められず、
そうして意を決してパトリシアは自らの服を
「おやまあ、
「ええ……そう、なんです。とても良いお店ですね」
町娘らしいワンピースを身に着け
旅の客が多く訪れる町であるため、パトリシアにこれから必要となりそうな服が多く
パトリシアはいくつかの服を店主と共に選び鞄に入れてもらった。
「お
「よく分かりましたね。貴族の方のお下がりを手に入れる機会があったの」
「別嬪さんは違うねぇ。ただ、気を付けなよ? こんなイイ物があったら
「傭兵ギルドのドレイク?」
聞き慣れない言葉だった。
「国の衛兵は盗みぐらいじゃ動かないからね。ここらの傭兵ギルドは活動の評判が高いから、金さえしっかり
「またよろしく」と声を
(傭兵ギルド……)
この大陸にはギルドというものが存在する。
ギルドとは組合という意味であり、職業ごとに大きく分類されており、農業、林業、漁業、製造業、加工業といった業種の団体が職人ギルドと呼ばれている。
商売、
元婚約者であるクロードの家も商人ギルドに加盟している商人の一族だった。
商売をするならば必ず商人ギルドに加盟しなければならない。加盟には多額の組合費を要するため、そう簡単に入れるものではなかった。
(カイルの夢も一人前の商人ギルド組合員になることだったものね)
そして、名前だけ知っていたが
傭兵ギルドの
世が戦乱で満ちると傭兵ギルドの立場は大きく変わる。その地に
護衛に特化した傭兵ギルドもあれば、人目を
(わたくしでも知っている傭兵ギルドといえば……エストゥーリ)
大陸を
その時に
彼の知略により海岸地方の防衛を固め、
大人から子どもまでエストゥーリは
(まるで絵物語の中にしか存在しないような傭兵ギルドだったけれど……どういった組織なのかしら)
国の兵以上に信頼が厚いということは、それだけ
「ネピアに着いたら、色々なことを調べたいわ」
傭兵ギルドの話も絵物語なんかじゃない。現実なのだと思うと、それだけで胸が
その夜、固いベッドで
急な覚醒に頭がまだ回らずぼうっとする。
それでも何かしら気配を感じて、そっと身を起こした。
そして息が止まった。
パトリシアの視界に、
一気に心臓が高鳴り、日中に服屋の
ただ幸いなことに、男は一人だった。しかも、目覚めたパトリシアに気付いていない。息を潜めながら深呼吸をする。パトリシアは意を決し、
「…………っ!」
「誰か来てください!」
そして、声を張り上げ宿の使用人を呼んだ。
婚約破棄の手続きはお済みですか? 第二の人生を謳歌しようと思ったら、ギルドを立て直すことになりました あかこ/角川ビーンズ文庫 @beans
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