第5話酒と宿

 「ふーーー、生き返りました!」


 姉さんはキンキンに冷えた酒を一気に飲み干した。


 「姉さんはまだまだなんだからあまり飲むなよ」


 姉さんが酔っ払うとだるい。


 「まあーテオ様ったら、私のことを心配をしてくださるのですね」


 嬉しそうにおかわりをグビグビ飲む。


 ......心配とは? 

 何でさらに飲むんだよ。


 「んーそだよー」


 ボクは適当な相槌を返しておく。

 姉さんは何言っても全部良い方に解釈する。

 姉さんには皮肉が通じん。

 

 「お酒はいいですよ! 大人になったということを1番感じられます!」


 この世界では成人は15歳だ。前世の記憶があるボクからしたら酒を飲むには若すぎる。ボクの中では成人は18歳。だから17歳の姉さんはまだまだ子どもだと思う。


 ボクは前世と今世の違いを噛み締めながら姉さんを見る。


 姉さんは胸の前で両手を絡ませ、何やら感極まった様子で宙を見ている。


 ああ、もうダメだ......


 完全にキマッてしまっている。こうなると姉さんは止まらない。


 「テオ様と私が出会ったのは運命で、あの日は――」

 

 姉さんは何回目かはわからない、ボクと姉さんが出会った日のことを話し始めた。


 ボクはそのあいだ姉さんの話し右耳から左耳に流しながら明日からのことを考える。今日のことはもう考えん。意味がないから。


 それでいろいろなことを考えていたらいつの間にか姉さんは爆睡していた。


 ボクはやれやれと思いながら、身体強化をして再び姉さんを背負う。


 とりあえず近くの宿屋に行った。

 宿屋の女はメイドを背負うボクを見て不思議そうにしていたが、


 「あなたはいい弟ですね」


 んなことを言ってきた。


 宿屋やってるだけはある。人を見る目があるな。


 ボクと姉さんは主人とメイドじゃない。


 ボクが姉さんを拾った時、ボクが強欲に望んだから。


 「お前は......ボクの姉になれ!」


 ボクは一度もあんな奴らルーズ家を家族と思ったことがない。ボクを捨てる奴らだぞ? まあ、捨てられてよかったんけどね。

 だからボクは本気でと思える人が欲しかった。


 姉さんにはすごく感謝してる。でもそれを伝えたことはない。

 ボクは二度の人生で一度もありがとうを言ったことがないのだ。

 ......だけど、いつか姉さんには言いたいな。


 「ボクの家族になってくれて、ありがとう」


 しかし

 この言葉を姉さんに伝えられるのは思い他すぐだった。


 皇都内の裏


 美人のメイドと麻袋を持ち歩くガキが酒場にいたという話しが広がっていた。




+++



 

 「......んん......」


 カーテンから差し込んでくる光でボクは目を覚ます。


 昨日はこの部屋に入るとまず姉さんをベッドに放り投げた。それから風呂に入り、あがってきたらボクもすぐに寝た。昨日はいろいろなことがあって疲れてたからぐっすり眠れた。


 昨日姉さんの話しを聞き流してたときにいろいろと考えたけど、とりあえず昼間は魔導具屋に行こうと思う。

 本当は皇立図書館に行きたいんけど、貴族か許可された平民しか入れんのよ。ボクはもう貴族じゃないから入れない。

 

 こういうところは平民の方が不利なんだな。

 初めて貴族の方がいいと思ったわ。


 ......でも夜にこっそり入ればいいや。

 クククッ、不法侵入くらいお手の物さ。

 ......盗みのおかげで。


 ぎゅるるるる


 「腹減った......姉さんや、早く起きてくれ。朝メシ食いたい」


 ボクは姉さんの胸の中から抜けようとするが、全然動けん。


 「姉さんや、早く離してくれ」


 昨日、ボクは確かに姉さんが寝ているのと違うベッドにダイブして寝た。それなのにボクは今姉さんにがっちりと抱きしめられ、抱きまくらにされている。

 

 ......なんでボクのベッドにいるんだ? 


 やっぱりボクと姉さんの磁石は極が違うのか? 

 頼むから同じ極であってくれ。

 引き合うのはもう懲り懲りだ。


 身体強化すれば姉さんのハグを無理やり剥がせる。けれどそれはさすがに気が引ける。姉さんはボクにとってたった1人の家族だから無理だ。


 「仕方ない、二度寝するか」


 ボクは再び目を閉じた。


――


 「テオ様! テオ様! もう日が昇っていますよ。いつまで寝てるんですか?」


 ボクは体を揺すられ二度寝から目が覚める。

 目の前にはメイド服ではなく私服に身を包んだ姉さんがいた。

 

 「あれ? 姉さんメイド服じゃないのか?」


 姉さんの私服姿は珍しい。ルーズ家にいたときだって公休の日にも関わらずいつもボクの部屋にいた。当然メイド服の姿で。だから姉さんの私服姿をほとんど見たことがない。


 「ふふふ、メイド服はもう捨てました。もう不要ですもん」


 もう捨てちゃったのかーーー。売れば金貨になる気がしたんだけどな......


 ......金貨?


 「姉さん私服持って来てなかったよな? その服はどうしたんだ?」


 姉さんのポケットに入ってた金貨はボクが頂戴したし......


 「ふふふ、朝起きたら机の上にこんなにも金貨があったんです」


 姉さんはニヤニヤしながら麻袋を右手で持ち上げる。おっさんからもらったやつだ。


 「なんぬ! 姉さんはよくも堂々と人のお金を使えるな!!!」


 (怒りに狂う人の子よ、まずは自分のことを見つめなさい) か、神様!?


 「あらあら、私のポケットから金貨を取ったのは誰でしょう?」


 それからはボクと姉さんによる麻袋争奪戦がしばらく続いた。


 しかし途中で麻袋が破れたことで取り合いは終了。


 お互い金貨が散らばった部屋を見て


 「「......」」

 

 「朝メシ食べに行くか」


 「そうですね。お腹が空きましたね」


 めんどいから宿屋の女に任せることにした。


 受付のところまで行くと宿屋の女がジトっとした目で見てきた。


 「ちっとばかり部屋が散らかっちまったから掃除頼んだぞ!」

 

 ボクは親指を立てて笑顔で告げた。


 ―――――――――――――――――――――

あとがき


テオ君はすっかり転移魔法のことを忘れてますよね?


まだ皇都で使えるか試してないみたいです。


*次話 明日18:42予約投稿済み

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