第4話姉さんとテオ

 前半は馬車に乗っていた女性サイド

 後半からはテオサイド

 少し長いですが、最後までお付き合い下さい

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前半(馬車に乗っていた女性サイド)



 旦那様ロンド・ルーズからテオ様が訓練中に行方不明になったことを聞いたときは、思わず旦那様を殴りそうになりました。どう考えても目の前にいる男の仕業としか考えられませんもん。

 私には、よくも命の恩人を捨てて来ましたねという怒りが沸々と湧いてきました。

 そして私はそのままの精神状態で皇都に行くことになりました。皇都の騎士団にテオ様の捜索願いを提出するためです。

 男爵家の家督を継ぐ予定のテオ様がということで、意味のない紙切れを提出しとくみたいです。

 本当は今すぐにも破り捨ててやりたいです。

 でもテオ様は必ず生きています。今も私の中にある磁石がテオ様と引き合っていますからわかります。

 テオ様ならきっとこの家に放火するために戻って来ます。私はそのときにお手伝いできるようにまだこの屋敷に仕えてなければなりません。だから仕方なく提出しに行くのです。


 私は怒りを萎え繰り返させながらも何とか落ち着きを取り戻し、寄り合い馬車の駅まで向かいました。

 

 そしたらですよ。なんとビックリ。

 テオ様がいるではありませんか!!!


 私は自分がテオ様の幽霊を見ているのではないかと目を疑いました。


 テオ様が捨てられた場所は馬で駆けても2時間ほどかかる場所です。今ここにいるのはありえません。だからテオ様は既にお亡くなりになって、幽霊としてこの世界を彷徨ってるのではないかと本気で思いました。


 それで私は馬車に乗ってからもテオ様に声をかけず、ずっと凝視して見極めていました。


 今思えばテオ様は私に気づくべきですよね?

 が同じ馬車に乗ってたのに気づかないことってあります?


 しかし馬車が王都に近づくにつれて私は逆に不安に駆られてきました。テオ様と他のお客様は楽しそうに話しておりますのに、私には話しが振られないんです。まるで私は空気。誰も私のことを見ていません。だから私は自分の方こそ幽霊なのではと疑ってしまいました。ホント、私は何を疑ってたんでしょう......。


 それで自分の方こそいつの間にか死んでいたのでは? と思い、ショックを受けました。

 馬車が王都の駅に着くと、私はなぜか真っ暗な所にいたくなりました。

 ショックを受けたせいでしょうか?

 幽霊に近づいていますよね......。

 

 それで私はテオ様を置いてそそくさとその場立ち去りました。

 よくよく思うとこの行動も幽霊ですよね......


 あれ、あいついなくね? 

 いつの間に去ったの? 

 も、もしかして幽霊だったのかな?


 ああもう、幽霊と思われても仕方ありません。

 

 それでも私は何とかショックから立ち直りました。するとテオ様を置いてきてしまったことに気付いたのです。

 それで急いで駅まで戻りました。

 駅に戻るとテオ様はまだ一緒に馬車に乗っていた方々と話していました。一安心です。

 テオ様が私以外の人とあんなにも話しているのは珍しいです。私は自分のことのように嬉しくなりながら物陰からこっそりと様子を伺いました。


 「......なにゆえ、なにゆえ盗んだのじゃ?」


 !!!


 どうやらテオ様は盗みを働いた理由を問いただされているようです。

 ......正直私もとても気になります!

 テオ様はお金を盗むとき、なぜか金貨しか盗んで来ないんです。

 だからテオ様はお金に興味があるわけではないようです。だったら何のために......


 「きんが好きだからだ......」


 ......へ?


 今テオ様はきんが好きだからとおっしゃいましたか?


 そそそそんなお可愛い理由で金を集めていたのですか?

 

 ふふふ、やっぱりテオ様はですね。


 テオ様は欲しいと思った物は何でも手に入れようとしますからね。


 私を助けてくださった時だってテオ様は強欲でした。何度も私に――


 おっと、テオ様が急に走って駅を出て行ってしまいました。追いかけなければ!


 私はまだ小さくも逞しい背中を追って、走り出した。


 テオ様が奴隷首輪の代わりにつけてくださったネックレスに、手を添えながら。



――――――――――――――――――――

後半(テオサイド)



 「困った......ボクは一体どこに向けて走り出したんだ?」


 皇都に着いた喜びのあまりに走り出したが、何も考えていなかった。


 「まあ、腹減ったし。遅い昼メシを食いながら考えればいっか」


 ボクはいつも通り楽観的に考える。


 「それにしても今日はいろいろあったからやけに1日が長く感じるな。まだ夕方になってないのか......」 


 う〜んと腕を空に伸ばしながら、良さげな店を探すために歩き出す。


 「テオ様ーーー! お待ち下さい!!!」


 ああ、ボクを追って来たよ。

 

 振り向くと綺麗なピンク色の髪をセミロングに伸ばし、メイド服に身を包んだ女性がいた。

 彼女の綺麗な青い瞳はしっかりとボクのことを捉えている。

 だ。姉さんはいつもボクが行く所についてくる。どんなに巧みに屋敷を抜け出してもついてくるのだ。


 磁石でもついてるのかな?


 だったらボクと姉さんは同じ極にして欲しい。反発するから......。


 「姉さん、またついて来たの?」


 ボクはいつも通り素っ気なく答える。


 たとえ森に捨てられても、姉さんならここにいてもおかしくないと思えてしまう。そのくらい姉さんのボクに対する感度は高い。


 「テオ様! どうして馬車では私のことを無視したのですか?」


 ん、馬車? 

 なぜボクが馬車に乗ったことを知ってる? 

 いや、待て。

 私のことを無視したってどういうことだ?


 「姉さん、それはどういうことだ?」


 「......え? テオ様はも、もしかして私が乗っていたことに気づかなかったのですか?」


 姉さんは全身をガクガク震わせ、顔が青ざめていく。


 姉さんが同じ馬車に乗ってたのに気づかないことなんてあるか? いや、ないだろ。


 「姉さん、ホントに乗ってたのか?」

 

 ボクは純粋な疑問を姉さんにぶつける。


 そもそも気づいたら普通声かけるべきだよな?


 「ああ、やっぱり私が幽霊でしたのね」


 姉さんが膝から崩れる。


 幽霊?

 何言ってんだ?


 「私は幽霊です。私はもう死んでいます。私はもう二度と日の光を浴びれません。私はーー」


 ......いやいや、今もバリバリ太陽浴びてんじゃん。


 「姉さん、熱中症にでもなったのか? 今日は暑いもんな。ほれさっさと店に入って涼むぞ」


 やれやれ。困った姉だ。


 ボクは姉さんを背負う。身体強化すればこのくらい余裕だ。


 姉さんを背負うとポケットからチャリンと音がした。ニヤリ。


 ボクはすかさず姉さんを下ろし、ポケットを探る。


 クククッ、金貨が5枚。


 もちろん全部頂戴した。



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*次話 明日18:43予約投稿済み

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