第2話転移魔法

 「皇都まで......転移!」


 ボクは目を閉じて叫んだ。


 クククッ、目を開けたら人混みに揉まれて

 ――なかったわ。


 どうやらボクは転移に失敗したみたい。


 でもまあ、失敗した理由は予想がつく。

 皇都はアホほど広い......多分。

 行ったことないからわからんけど......。


 「具体的に場所をイメージする必要があるんだろな」


 まあ、そりゃそうだわな。適当だったらワンチャン土の中に転移するかもしれないし。


 「まあ、目視で確認できる距離でいいや。まずはあの木まで転移してみよう」


 ボクは再び目を閉じる。

 そして先程見た木のイメージを練り上げていった。


 「......転移!」


 そう叫んでから2秒後ぐらいにゆっくりと目を開ける。


 「おお!!! しっかり転移できてるぞ」


 ボクは両手を空へと伸ばして喜びを噛みしめる。


 「クククッ、やっぱり魔法は最高だな。いつかは空を飛んでみたい」


 ......ああ、夢が広がっていく。


 未だかつてこんなに喜びを感じたことがない。自分のやりたいことを再認識する。


 「ボクは何としても魔法を習得してやる」


 だからそのために皇都を目指す。


 「よし! 皇都にさっさと行くぞ!」


 ボクは再び皇都に向けて、適当に歩みを進めようとする、が


 むむむむむ、待てよ!!!


 大変なことに気づいた。


 「転移魔法はイメージが出来る場所ならどこでも転移できるんだろ。だったら駅に転移すればいいじゃん。そしたら寄り合い馬車ですぐに皇都まで行ける」


 天才的な考えが閃いてしまったのだ。


 「んじゃ、早速行こう。駅前のイメージをして......転移!」


 


+++




 「うわっ!?」


 背後から驚きの声が聞こえ、ボクはゆっくりと目を開ける。転移という現実離れした力なだけにどうしても目を閉じてしまう。慣れるにはまだまだ時間がかかりそうだな。


 「おお! 駅だ!」


 改めて転移魔法の素晴らしさを噛みしめるとともに、ちゃんと駅前に転移したことにほっとする。


 「こ、小僧。今のは転移魔法かい......っ?」


 背後から震えた声で質問を受ける。


 「ん? ああ驚かせちまったみないだな。今のは転移魔法だぞ。ほれ」


 ボクに尋ねてきたおっさんは驚きのあまりに腰が抜けてしまったらしい。

 まあ、一応手を差し出しておく。


 「お、おう。すまないね。あまりにビックリしてしまったもので」


 おっさんはおずおずボクの手を取って立ち上がる。


 「転移魔法ってそんなに驚くほどの代物なのか?」


 魔法書を開いただけで習得したから、正直すごいという実感がない。


 「小僧よ、本当に何も知らないのかい!?」


 おっさんは目を見開き、また驚いている。


 「ああ、なんも知らん」


 「......はあー。小僧よ、一応忠告しておくがその魔法は人前で使わない方がいい。それは失われた古代魔法だ」


 おっさんはため息を吐いた後、ボクに顔を近づけて小声で言った。


 「古代魔法?」


 ボクも同じように声を潜めた。


 「そうだ。古代魔法はもはや御伽話しの中でしか出てこない。古代魔法は主に対魔族、対魔物のために作られた魔法だ」


 「......ふーん、そうなんだ。じゃあ現代の魔法は何なんだ?」

 

 「現代魔法は主に防御特化と対人類用だ。この世界に神の使い、聖女や勇者が降り立ってからは聖力によって魔族や魔物の侵入を阻めるようになった。だから人間の脅威は人間になったんだ」


 なるほど......。魔族や魔物とやり合ってるときは人々は協力しあってた。だけどその脅威を排除できるようになってからは、人同士で争うようになったと......。


 クククッ、人間らしいな。人間は欲がある限り争いをやめられない。


 ボクはいつの間にか笑ってしまっていたらしい。


 「こ、小僧。どうしたんだ?」

 

 おっさんが不気味そうにボクを見てくる。


 「ああ、なんでも無い。どこの世界でも争いはなくならないんだな」


 「どこの世界?」


 「いやこっちの話だ。深い意味はない」


 転生のこと言っても誰にも通じんよな。そもそも前世では人生の大半を病室で過ごしてたんだ。だからあの世界のこともほとんどテレビの画面越しでしか知らん。テレビのニュースに出てくるのはいろいろな争いばかり。ガキンチョながらに醜い世界だと思った記憶がある。


 「ん? でも対魔族、対魔物の攻撃系魔法が失われたのは理解できるんだが、なんで転移魔法まで失われたんだ?」

  

 転移魔法なんか便利すぎだろ。普通に。


 「いい質問だ。それはな、転移魔法があまりにも脅威だったからだ。暗殺に便理すぎるだろ? それで真っ先に転移魔法を封じる結界が作られたんだ」


 「なるほどそういうことか......ふむ......」


 ボクは右手を顎に添えて熟考する。


 本当に転移魔法は完全に封じられてるのか?


 先程転移魔法を習得したボクにとっては不思議なことだ。1つの魔法を行使するには特定の回路を通る必要があるのはわかった。だからその回路の途中を結界が妨害してるだろうことは予想がつく。


 しかし、だ。


 で転移魔法を使ったらどうなるんだ?


 もしかしたら結界内でも使えるかもしれない。


 まあ、今ここで考えても仕方ないな。

 皇都に行けばわかることだ。

 ......さっさと行こう。


 「おっさん、いろいろ教えてくれて助かった」


 ボクは唐突におっさんに礼を言う。


 「お、おう。小僧は今から皇都にでも行くのか?」


 「ああ、そうだ」


 「......それで小僧。お前はお金を持ってるのか? 見た感じ随分と身軽そうだが?」


 「かね? クククッ、そんなもん奪えばいいだろ」


 いつも奪ってるんだから。


 おっさんはボクの言葉を聞き唖然とする。そしてやれやれといった様子でカバンからどっさりとした麻袋を取り出した。


 「これを使え。いいもんを見せてもらったお礼だ」


 ボクは麻袋を受け取る。中身を確認すると大量の金貨だった。


 「おっさん、随分と金持ってるんだな。今まで奪ってきた奴らより......は少ないな。まあ、奴らからは持ってる全部を奪ってやったからな」


 「......小僧よ、人からお金を奪うのはやめとけ。いつか痛い目に合うぞ」


 おっさんは頭を抑えながら言う。


 「クククッ、少しは考えといてやるよ」

 

 ボクは偉そうな返事をする。


 「それじゃ、ボクはもう皇都に行く。おっさん達者でな!」


 ボクはおっさんの返事を待たずして、駆け足で寄り合い馬車のところまで行く。


 おっさんはそんなボクの後ろ姿を見えなくなるまで見ていた。


 「いやはやまさか御伽話に出てくるような魔法をこの目で見れるとはな。私はとても運がいい......」


 おっさんは満足そうに何度も頷く。


 「......あれ? そういえばこの街もで覆われてるのでは......」


 おっさんは急に冷や汗が止まらなくなった。


 

―――――――――――――――――――――

 名前    テオ(ルーズ家なんてクソ喰らえ)


 年齢    10(前世11歳まで)


 職業    平民(やっと自由だ)


 特徴    強欲(やりたいと思ったことをす

         ぐにやろうとする)

       転生者(ただし前世の日本社会を

          ほとんど知らない)


 習得魔法  身体強化 転移

 

 家族    今は姉だけ

 

*次話 明日18:47予約投稿済み

 




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