勇者リオン再上陸の顛末


 予め、勇者は【鑑定阻害】のスキルを保有している。

 その為、仲間とのやり取りや、勇者以外のパーティーメンバーの鑑定結果などから強さを推測するしかない。

 今回の様に単体ソロで来られると、それすら無理だ。


 また、リオンの風貌は三年前とは著しく変わっていたらしい。


 あらゆる点が不明とされていたのには、そういったの事情からだ。


 魔王軍の斥候部隊は、さすがに勇者が一人で攻めて来たとは信じなかった。

 仲間が別ルートで上陸しており、どこかで合流するつもりだろうと踏んでいた。


 が、今回のリオンは、紛れもなく単体ソロの勇者だった。


 きっと彼自身、一人で魔王陛下を打倒できるとなど本気で考えてはいなかっただろう。

 魔王城へ到達する事すら、まず不可能だったはずである。


 では、リオンの目的は一体何だったのか?


「恐らくは、復讐リベンジだ」


 フリーダは、遠くを見つめぽつりと言った。


 僕と彼女は、村の裏山にいた。拝殿よりも、さらにずっと高くまで登ってきている。

 ここからだと、島のかなり遠くまで見渡せた。

 リオンが消し飛ばしてしまった村の痕跡も、わずかにだけど確認できた。


 フリーダは、リオンを迎え撃つ為にあの村へ集められたひとりだった。


『あの蝿野郎を連れてきてくれ』


 リオンは、彼女たちにそう告げたという。


 それが、ベルブーゼを指しているのは明白だ。一度目の上陸時に、リオンたちを撃退した張本人である。

 あの戦闘において、リオンは複数の仲間を失っている。


『ヤツだけは許さない』


 つまり、リオンはベルブーゼへの復讐を果たす為に、再びこの島へ上陸してきた訳だ。

 逆恨みも甚だしい。攻め込んで来たのは、彼らの方なのだから。


 勿論、リオンの申し出は一蹴された。

 まあ、ベルブーゼは血気盛んな性格らしいので、呼べば来たのかもしれないけれど。


『どうしても、駄目か』


 リオンは観念した様につぶやいた。


 彼はたった一人きりで、魔王軍の精鋭戦士たち十数人に包囲されていた。もはや、万事休すの状況だったはず。


 が、リオンは驚くべき行動に出た。


「まさか、勇者が自爆するとは思わなかったよ」


 フリーダは苦笑交じりの溜息を漏らす。


 村人は、既に全員が避難を終えていた。

 あの場にいたのは、フリーダを含めて屈強なる魔族の戦士たちのみである。


 それでも、瀕死の重傷を負った者もいた。衛生兵らが迅速に治癒魔法を施したおかげで、さいわい犠牲者は出さずに済んだらしい。


 勇者の【自爆】は、やはりとてつもなく強力だった。

 何せ、村がひとつ消し飛んでしまったのだから。


「お前の勇者討伐は、極めて特殊だ」


 フリーダが、僕に向き直って言う。


「……だろうね」

「けど、きっと悪くないやり方だ」

「え?」

「少なくとも、カイトがお前に復讐しようとは考えないだろう?」


 確かに、そうかもしれない。何せ、カイトは僕に感謝すら述べていたのだから。

 彼の事情はよく知らないけれど、あれは本心からの言葉だったと思う。

 まあ、あんな方法はカイト以外には通用しないかもしれないけど。


「ともかく……」


 フリーダは僕に歩み寄ると、ぎゅうーっと抱きしめてくる。


「よくやったぞ、ルードッ」

「んぐぐぐぐぐ」

「わたしは信じていた、お前ならやれると」

「んぐぅー!」

「殿下もたいへん喜ばれておられたそうだぞ」

「ぷはッ。……殿下?」


 唐突に出てきた言葉に、僕は戸惑う。

 ようやく僕を解放したフリーダは、当然の様に言う。


「魔王女殿下だ」

「ま……な、何で?」


 驚きを隠せない僕。


「前に話しただろう、お前の考えを気に入っておられると」

「いや、それが魔王女殿下だとは聞いてないよ」

「そうだっけか?」

「初耳だよ」


 僕の考えを、なぜ魔王女殿下が知るにいたったかは、フリーダにもよくわからないという。


 ただ、手紙の内容については、他のゆうせんの隊員らにも話していたらしい。それが、やがて何かの偶然で殿下のお耳にも入ったのだろう。


「殿下は、とてもお優しいお方だからな」


 たぶん、それゆえに、僕の考えを高く評価してくださったのだろうフリーダは言う。


 恥ずかしいような、畏れ多いような……。

 こそばゆい気分である。


 フリーダは、手に一枚のカードを取り出して、僕へ差し出す。


「ゆうせんの正式な隊員証ライセンスだ」


 僕は、それを受け取る。(仮)とは違う重みを感じ、居住まいを正す。


「これから僕はどうすればいいの?」

「もちろん、勇者を討伐しろ」


 フリーダは、当然だろうという顔をする。


「まずは勇者を見つけ出せ。で、お前のやり方で討伐するんだ」

「僕のやり方……」

「ああ。必要なものがあれば申し出ろ。魔王軍の側で、可能な限り用意してもらえるぞ」


 必要なもの……。

 そう聞いて、僕の頭に真っ先に浮かんだものがあった。

 まあ、それは「もの」ではないけれど。


 勇者の討伐において、僕にとっては必要不可欠な存在だった。

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