暗黒門
この世界と、暗黒空間とを繋げる門。
【
僕が魔法でそれを作り出したと知った時、パパとママはめちゃくちゃ驚いた様子だった。
ていうか、むしろ引いていた。
「あまり、知られない方がよいじゃろう」
パル爺に相談すると、そう忠告された。
うかつに周囲に知られれば、僕は変な目を向けられかねないという。
それくらい、【
だから、村内でも一部の人にしか教えてはいない。
フリーダにさえ、この魔法の事は伏せていた。
一方で、僕はこんな風にも思った。
これを用いれば、レベル1の勇気を討伐できるかもしれない。
【
また、
暗黒空間がどんな場所なのか?
それは、よくわかっていない。
ただ、記録にある限り、そこから帰還できた者はいないらしい。
勇者を暗黒空間へと放逐できれば、それは討伐と同義といえるはずだ。
問題は、いかにして勇者に
突き飛ばすなどして、無理矢理に放り込む事は出来ない。
それは勇者への攻撃と見なされ、【障壁】に防がれてしまうだろう。
あくまで、勇者に自ら
どうすれば、そんな事が可能なのか?
僕はさんざん頭を悩ませた。アネモネとも、何度も話し合った。
その末に捻り出した方法……。
けど、失敗した。
島では、もっと大きな
この場では、小さな
それが、失敗の最も大きな要因だ。
カイトは、畏怖と驚嘆の混ざった様な顔で立ち尽くしている。
アネモネが、こちらを振り向く。どうするのか目顔で問いかけてくる。
カイトに、【
恐らく、彼はまだあれが何であるかまでは、理解できていないだろう。けど、強い警戒心を抱かせてしまったはず。
きっと、もう同じ手は通用しない。
「な、何なんだよ、今のは?」
カイトは問いかけてくるが、勿論、僕らがそれに答えるはずはなかった。
徐ろにカイトはかがみ込むと、指先で地面に自らをぐるりと囲む円を描く。
「オレはもう動かないぞ。この円から、一歩も出ないッ!」
力強くそう言い放つと、カイトはさらに僕らに告げる。
「お前たちこそ、早くこの場を離れた方が良いんじゃないのか?」
「え?」
「もうすぐ、オレの仲間たちがここへ戻ってくるぞ。町の冒険者たちを大勢連れてな」
確かに、彼の言う通りかもしれない。
今の僕らの力で、多数の冒険者を相手にするのは危険だ。
【
追い詰められたのは、僕らの方か。
アネモネが、厳しい顔つきでカイトに問う。
「今までどれくらい狩った?」
「え?」
「レベル上げの為に、どれだけの魔獣を倒してきたんだ?」
「さ、さあ。そんなの、数えている訳ないだろ」
大きな戦槌を、アネモネはカイトに向けて振り下ろす。
勿論、それは【障壁】に弾かれた。
それでも、アネモネは何度も繰り返し、怒りの感情に任せる様に戦槌を振るい続ける。
青白く輝く【障壁】の中で、カイトは呆然と佇んでいる。
いい加減に疲れたのか、アネモネは息を弾ませ、戦槌を地面につく。
しばらく、沈黙の時間が続いた。
「スライムも倒したの?」
僕は、カイトに問いかけた。
「スライム? まあ、最初の頃はな」
「どれくらい?」
「だから、覚えていない。結構、たくさん狩っただろうけど」
「その時どう思った?」
「どう?」
「痛そうだとか、かわいそうとは思わなかったの?」
「まさか。……ていうか、スライムに感情なんてあるのか?」
「あるよ」
「え?」
カイトは、思い切り目を見開く。
彼のすぐ目の前に、小さな女の子が佇んでいたからだ。
ライムである。
恐らくカイトは、僕との会話とアネモネの存在に気を取られていたのだろう。
そこまで接近されるまで、ライムにはまるで気付いていない様だった。
どんッ。
両手で、ライムはカイトを突き飛ばす。
彼女はごく虚弱な魔獣である。【障壁】は、反応しなかった。
ライムに大した力なんてない。
けど、不意打ちで身体を押されたカイトは、背後に転倒してしまう。
今だッ!
「
カイトのすぐ真後ろに、暗黒空間への入口がぽっかりと開く。
「うわああああああー!」
叫びながら、勇者は漆黒の穴へと吸い込まれていった。
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