はじまりの町、勇者を探せ


 エマーヒルから、馬車を乗り継ぐことおよそ一週間。

 街道の先に、町が見えてきた。


 草原の中にあり、周囲をそれ程高くない壁に囲まれている。

 規模はさほど大きくはないけれど、小さすぎる訳でもない。

 いわば、ありふれた町である。


 けど、僕にとっては特別な意味を持つ場所だ。

 はじまりの町、【モルタニア】。


 到着すると、いつもの様に僕だけがまず冒険者カードを用いて町へ入る。

 適当な建物の裏側に【刻印マーキング】を施してから、アネモネたちを【転移ワープ】で町の中へ連れて来た。


 ようやく、目的地へたどり着く事ができたぞ。


 けど、感慨に浸っている暇はなかった。いわば、ここからが本番である。

 勇者を探し出して、討伐しなければならない。


「で、どうやって見つける気だい?」


 アネモネから問われるも、僕はこれといった回答を持ち合わせていなかった。


 そもそも、本当にこの町に勇者はいるのか?

 仮に滞在していたとして、何処へ行けば会えそうだろうか……。

 すぐに、一つの答えが思い浮かんだ。


 僕らが向かった先は、冒険者ギルドである。

 勇者であれば必ずここに所属しており、出入りしているはず。


 この町の冒険者ギルドの施設は、エリムのそれよりやや大きい程度の規模だ。

 はじまりの町だからかもしれないけど、どこかのんびりした雰囲気が漂っている気がした。


 とりあえず、建物内にいた冒険者たちに聞いてみる事にする。

 勇者に心当たりは、ありませんか?


 もちろん、そんなに容易く有力な情報が得られるとは期待していない。


 最初のふたりからは、軽くあしらわれて終わりだった。

 が、三人目に話を聞いた相手から、意外にも「あるぜ」という答えが返ってくる。

 レドという中年の冒険者だ。


「え、本人がそう名乗ったんですか?」

「ああ、『俺は勇者様だぞ』ってな」


 僕とアネモネは、思わず互いを見合わす。


 三日前の晩、レドは町の酒場でひとりで飲んでいたらしい。

 店内には、他に冒険者パーティーと思われる四人組の客がおり、レドとの間でちょっとした揉め事が起きた。

 憤慨した一人が、自らを勇者だと名乗る発言をしたという。


「まあ、すげえ酔っぱっていたけどな」


 ……となれば、その言葉の信憑性は極めて低いと言わざるを得ない。


 念の為、現場である酒場も訪ねてみた。


 未成年者が、足を踏み入れられる場所ではないだろう。けど、まだ開店前で客もいない為、店内へと入れてもらえた。


 白髪のマスターによれば、三日前、レドの言う出来事が実際この店であったらしい。

 四人組の素性も判明した。

 カイトという新人冒険者と、その仲間たちだろうという。

 勇者を自称したのは、カイトである。


「彼は、本当に勇者だと思いますか?」


 僕の問いに、マスターは微苦笑を浮かべる。


「勇者を名乗るヤツが皆、本当にそうなら、この世界は勇者だらけさ」

「……」


 酒場を後にした僕たちは、町の中央にある広場へとやって来る。

 ベンチに、三人並んで腰を下ろした。


「ボクもあのマスターの言う通りだと思うよ」


 アネモネの意見に、僕も概ね同意だ。


 酔っ払いの言う事など、ただでさえ安易に信用すべきではない。真に受ける方がバカかも。

 それに勇者であれば、尚更、自ら名乗るはずがないだろう。

 けど……。


「ひとつだけ、気になる点があるんだ」

「何だい?」

「彼の仲間たちの反応だよ」


 マスターいわく、カイトが勇者を名乗った直後、仲間たちは彼の口を塞いで強引に店の外へ連れ出したらしい。

 ただ勇者を自称しただけにしては、ちょっと過剰な慌てぶりにも思える。

 単に恥ずかしかっただけかもしれないけど。


「とりあえず、会うだけでもしてみよう」

「ま、いいけど」


 再び冒険者ギルドへやって来た僕らは、その場にいる人たちに、カイトについて聞いた。


 一人の若い男性の冒険者が、彼らの居所を知っており教えてくれた。

 町の北側にある森の奥にいるだろうとの事だ。


依頼クエストの最中ですか?」

「いや、たぶんレベル上げだ」


 その言葉を聞いた途端、アネモネから殺気が発せられるのを感じた。


 頼むから、いきなり彼らに襲いかかったりはしないでくれよ。


 まずは、確かめる必要がある。

 カイトが、本当に勇者なのか。

 それまでは、こちらの正体を知られるのは避けなければならない。

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