盗賊団退治と戦利品
赤ひげは、僕の言葉をまだ信じきれていない様子である。
ならば証拠を見せる事にしよう。
指輪、首飾り、懐中時計……。
僕は【
薄茶色の陶器の壺を取り出した時、赤ひげが思い切り表情を強張らせる。
「よ、よせ。その壺は……」
彼の反応は、それが極めて貴重な品である事をわかり易く示していた。
「高いの? これ」
正直、僕にはごく普通の小ぶりな壺にしか見えない。
「いくらすると思っている。大切に扱えッ!」
「ふうん」
その壺を、僕は赤ひげに向かって放り投げる。
「ひやあああッ!」
赤ひげは拳銃を投げ捨て、宙を舞う壺を両手で受け止めた。
「ライムッ」
僕はライムに呼び掛ける。
こちらへ駆け寄ってきたライムは、ぎゅっと僕の腰の辺りに抱き着く。
アネモネは地面に落ちた拳銃を素早く拾うと、僕へ投げてよこす。
それを右手でキャッチした僕は、銃口を赤ひげに向けて構えた。
一瞬にして、形勢は逆転である。
突如、黒バンダナが入口の方へ駆け出した。逃走しようとしたらしい。
が、アネモネのワンパンで、呆気なくノックアウトされた。
なす術なしと諦めたのか、赤ひげは両手を上げて降参の態度を示した。
「……い、命だけは助けてくれ」
僕は、彼の鼻先に銃口をつきつける。
「た、頼む。何でもする」
「本当?」
何度も首を縦に振る赤ひげを、僕は洞窟の外へと連れ出した。
白狼族の男性が、相変わらず同じ場所で直立したままでいる。
僕は彼に施した【
「首輪を外せ」
唯々諾々、赤ひげはそれに従う。
白狼族の男性の首元に手をかざすと、何やらブツブツと詠唱を始める。
隷属の首輪は、鈍く光った直後、ボトリと地面に落下した。
白狼族の男性は、自らの首に手をやり確かに首輪がない事を確認する。
赤ひげを、睨みつける。
静かなる怒りが表情などから伝わってくる。
赤ひげは、すくみ上がっていた。
次の瞬間、白狼族の男性の強烈な右ストレートが、赤ひげの顔面にめり込んだ。
「ぶぎゃあああああッ!」
赤ひげの身体は十メートルくらいぶっ飛んで、岩壁に衝突してから地面に落下した。
完全に意識を失っている赤ひげを、白狼族の男性が、足を掴んで引きずって洞窟内へ戻す。
僕らは、赤ひげを含む団員たち全員の身体を、ロープ等できつく縛った。
後は町の衛兵か自警団を呼び、連中の身柄を引き渡せば
「君たちには、感謝してもしきれない」
白狼族の男性は「ボルフェン」と名乗った。
この森で、妻と子と共に、狩猟を糧に静かに暮らしていたらしい。
盗賊たちとは、けして関わらない様に気をつけていたという。
が、奴らの方から、ボルフェンの棲家を襲撃してきた。しかも、彼の不在時を狙って。
妻と幼い娘を攫った盗賊たちは、ふたりを人質とした上でボルフェンを脅迫した。
奴らに協力する以外、選択肢はなかったという。
「何か、お礼をさせてくれないか」
ボルフェンはそう申し出る。が、僕らにはこれといって思い浮かばない。
あくまで、依頼達成の報酬さえ貰えれば良いんだけど。
それでも、ぜひ何かさせてほしいと言う彼に、僕は言った。
「ならば、誰にも僕らが魔族であるとは明かさないでもらえますか?」
ボルフェンはそれくらい、いくらでも約束すると言ってくれた。
盗賊団の連中には、アネモネがナイフを突きつけた上できつく言い聞かせる。
「もし、ボク達の正体をバラしたら、牢獄の中までも行ってブチ殺すよ」
ボルフェンも、一緒になって凄みをきかせて脅してくれた。
彼らは心底脅えきった様子だったので、まず約束を破る心配はないと思う。
そもそも、悪党を退治した冒険者が、実は魔族でしたなんて話は誰も信じないだろう。
まして盗賊たちがそれを言っても、ただの戯言としか受け止められないはず。
洞窟で回収した盗品の数々。
もし、これらを売り払えば、とんでもない金額が手に入る。
まあ、そんな事をすれば、僕の方が盗賊になってしまうけど。
受付のお姉さんいわく、今回の依頼達成の報酬だけで、モルタニアへの馬車代には余裕で事足りるらしい。
大陸の果てまでもいけます、とさえ言われた。
僕らにはそれで十分だ。
奪還した品々は、冒険者ギルドへ提出した。可能な限り持ち主に返還されるという。
けど実は、僕はすべてを差し出した訳ではない。
ふたつだけ、自らの手元に残した。
それらはきっと、勇者の討伐に役立つだろう。
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