隠れ家を探索


 僕ら三人が横に並んで歩けるくらいの幅を持つ通路が、まっすぐに続いている。


 天井から魔導灯が吊るされているものの、数は少なくて薄暗い。


 通路に人の姿は皆無だ。

 突き当たりにベンチが置かれているが、そこも無人である。

 警戒していたが、見張り番の一人も置いていないらしい。


 左右には、全部で六つほどの脇道があった。

 そのうちの一つから、騒がしい声や物音が漏れ聞こえてくる。


 僕とアネモネで、こっそりと覗き見た。


 奥には、やや広めの空間がある。こじんまりとした酒場くらいの面積で、テーブルが三つ並び、七、八人の人族の男らがいた。

 いずれも薄汚れた軽鎧や、鎖かたびら等を身につけている。


 その雰囲気は、まさしく酒場のそれだ。

 各々がコップや酒瓶を手にして、カードやらダーツ等の遊びに興じている。

 泥酔状態と見える者もいた。


 内部に見張りがいない点も含め、油断しすぎと言う他ない。

 それくらい、外の用心棒の力を信用しきっているのかもしれないけど。


「あれでメンバー全員ではないよね」


 僕の言葉に、アネモネも頷く。


 冒険者ギルドで聞いた所によれば、十数人はいるとの話だ。


 他のメンバーの所在、それとこの隠れ家全体の広さや構造についても把握しておくべきだろう。


 脇道の数を考えれば、僕とアネモネで手分した方が良さそうである。


 ライムはどうしよう?


 ここは敵地であり、いつ戦闘が発生してもおかしくはない。

 僕の戦闘力では、ライムを守り切れるか不安である。なので、ライムはアネモネに託す事にした。


 僕はまず、一番奥の向かって右側の脇道へ入る。


 一人が通れるくらいの狭い通路が、結構長く続いていた。

 突き当たりはT字路となっている。

 左に曲がり、僕はさらに先へと進んだ。


 やがて、広めの空間にたどり着く。先程の酒場然とした場所と同じくらいの広さだ。


 ただ、そこには人の姿はない。


 代わりに、多種多様な物品が山と積まれていた。


 宝石や懐中時計、衣類や食器。槍や弓、兜といった武器防具も見られる。

 他には、馬具や車輪、壺なんかもあった。


 間違いなく、これらは全て盗品だろう。


 しかし、いわば貴重な戦利品を保管する場所ですら、見張りの一人もいないなんて。

 いくらなんでも、セキュリティがガバガバすぎでは?

 まあ、盗賊団に防犯意識を問うのも、おかしな話ではあるのだが。


 さて、これらの品をどうすべきかな……。


「おい、誰か来てくれッ!」


 突然、中央の通路の方で男の大声が轟く。


「侵入者だ、それもまぞく……ぶへえッ」


 どうやら、アネモネたちが見つかってしまったようだ。

 ……て、もう?

 早すぎだよと思いつつ、僕は脇道を駆け戻る。


 バキ、ドゴッ、ズガン。


「ぐえッ」

「うぎゃ!」


 進む先からは、そんな音と声が間断なく聞こえてきた。

 アネモネが、派手に暴れ始めているのだろう。

 急ぐ必要もないか?

 そう思った時だった。


「動くなッ」


 強く威嚇する声が聞こえた。

 やや嗄れた、男のそれだ。


 僕は警戒しつつ、脇道から中央の通路へ出る。


 眼を見張る光景がそこにはあった。


 十人程の男たちが、地面に倒れ伏している。

 アネモネが暴れまくった結果である事は、すぐに推察できた。

 ナイフを用いなかったのは、生け捕りの方が報酬が上乗せされると聞いていたからだろう。

 ……素手でも強いんだ。


 ただ、アネモネは拳を顔の前で構えたまま、じっと動かずにいる。


 その三メートルほど先に、男が佇んでいた。


 頭部はきれいに禿げ上がっており、胸元を覆うほどの赤ひげをたくわえている。

 この場では一番年配で、身につける軽鎧も他の者たちより上等そうだ。団の頭かもしれない。


 僕を一瞥だけすると、赤ひげは吐き捨てる様に言う。


「まさか、あの獣を倒せる人間がいるとはな」


 外の白狼族の男性の事を言っているのだろう。


「まあ、貴様らも人ではない様だが」


 赤ひげの右手には、拳銃が握られていた。


 その銃口はアネモネではなく、ライムへ向けられている。


「この娘の内蔵ぶちまけられたくなければ、一歩も動くんじゃねえ」


 恐らく、スライムである彼女を撃ってもそうはならないだろう。

 勿論、だからといってライムを撃たせる訳にはいかないけど。


「その子を少しでも傷つけたら、お前たちの盗んだ品々は二度と戻らないよ」


 僕がそう言うと、赤ひげは眉を顰めた。


「何だと?」

収納ストレージ


 次の瞬間、僕の左手に古びた丸い盾が現れる。

 赤ひげは、眉を顰める。この盾に見覚えがあるのだろう。


 傍らに佇んでいた、頭に黒いバンダナを巻いた小柄な男を赤ひげは見やる。


 慌てた様子で、黒バンダナは僕が今出てきた脇道へ駆け込んでいく。


 程なく、顔面蒼白となった黒バンダナが駆け戻ってくる。


「お、お宝が一つ残らずなくなってます」


 見開いた目をこちらへ向ける赤ひげ。

 僕は、勝ち誇った様に言い放つ。


「お前たちのお宝は、僕が全部いただいておいた」

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