勇者カイトはレベルを上げすに強くなる
エレーヌの目の前に置かれた皿には、三つの真っ白な果実がのっている。
冒険者ギルドの隅にあるテーブルを、カイトたち四人が囲んでいた。
カイトいわく、その果物は【ステイタスアップの実】なのだという。
もし、これを森や山に潜って採ってきたというのなら、少しは褒めてもいいのだけど……。
「買ったんですか?」
「うん」
「しかも、怪しげな業者から?」
「確かに正規の所ではない。けど、すごく良いヤツらだったんだよ」
エレーヌは、頭を抱えたくなる。
「どうする? 三人ぶんしかないけど」
カイトが、他の三人に問い掛ける。
「お、オレは遠慮しておく」
「私も」
グレックに続きエレーヌも、拒否する。
そんな得体の知れない連中から購入した果実を、口に入れる気にはなれない。
「お前が、三つとも食べれば?」
そうグレックが提案するが、ステイタスアップの実は、一度にいくつ食べてもひとつ分の効果しか得られない。
「んじゃ、わたしがいただくにゃ」
ミイナが果実を一つ手に取る。
ただ、一口かじると顔を顰めた。
「何にゃこれ。まず、しぶッ!」
ミイナはペッと口に含んだものを吐き出す。
「まあ、ステイタスアップ系の実は、味は期待できないからな」
平然と言うカイトに、ミイナが抗議する。
「騙されたにゃッ!」
「オレは美味いなんて、言った覚えはないぞ」
「くうぅ」
悔しそうなミイナをよそに、カイトは皿から果実を一つ掴み取る。
それにかじりつくと、あっという間に平らげた。
「何か、強くなった気がするぞ」
カイトは目を見張ると、両方の拳を握り自らの身体を見やる。
「いや、実感できる程の変化はないはずですよ」
エレーヌの言葉は、カイトの耳には届いていないらしい。
「ちょっと森に行って力試しする」
たぶん、気のせいだとは思う。が、カイトが自ら魔獣を狩りに行くと言い出すのも珍しい。
せっかくなので、皆で森へ向かった。
「カイトに話すのか?」
先を歩くカイトとミイナを見やりつつ、グレックが隣を歩くエレーヌに訊く。
「何を?」
「リオンの事だよ」
それについては悩ましい点だ。
触発されて、奮起でもしてくれれば良い。けどカイトの場合、「じゃ、オレもう魔大陸目指さなくてよくない?」とか言い出しそうだ。
あくまで、うわさである。
現時点では、リオンの件はカイトには伏せておく事にした。
森のそれなりに深い場所までやってきた。
傍らの茂みからゴブリンが一体現れたので、カイトがロングソードを腰の鞘から抜く。
一振りで、ゴブリンは倒れ伏した。
「やべえ」
慌てるカイトに、グレックが問う。
「何がヤバいんだよ?」
「レベル上がっちゃうだろ」
人族は、魔獣を倒すと、その瞬間に何らかの力を獲得する。その力は
一定数の
「確かに、強くなっているかもしれません」
エレーヌがぽつりと言う。
以前のカイトは、ゴブリンを一撃で屠るなど出来なかったはず。
森のさらに奥へ潜ると、今度は一体のオークと
応戦するカイトは、まるで別人だった。
力のみならず、俊敏さも昨日までとはまるで異なる。
いつの間にか、ひとりでオークを瀕死の状態にまで追い込んでいた。
が、止めを刺す気はないようだ。
あくまで、レベルは上げたくないらしい。
「おかしくないか?」
グレックが、カイトの戦いぶりを見て言う。
「はい。明らかにおかしいです」
ステイタスアップの実で上昇する数値など、微々たるもののはず。
こんなにも目に見えてわかる程強くなるなんて、あり得ない。
「なあ、そもそも何でその実が本物だと思ったんだよ?」
グレックが、カイトに問い掛ける。
「ああ、栗鼠の魔獣が食べるのを見たんだよ」
果物を買う前に、カイトは販売業者の人間に、本物である証拠を見せてほしいと注文をつけた。当然の要求だろう。
すると、彼らは一匹の栗鼠の魔獣にその果実を与えた。
最初はごく虚弱で、胡桃も割れなかったその栗鼠は、果実を食べた途端に石をも砕いたという。
いやいや、どう考えてもおかしいからそれ。
そこまで劇的に強さが上昇する実があれば、とんでもない高額で取り引きされているはずだ。
今のカイトたちに手が出るはずがない。
「さっき食べたのって、ステイタスアップの実ではなかったのでは?」
エレーヌの懸念は、的中していた。
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