新しい旅のお供


 ヤクゥツードへ戻るのは、やめておいた方がよいだろう。

 特に、冒険者ギルドへは近づくべきではない。


 地図によれば、あの町からさらに南下した所に別の町がある。

 とりあえず、次はそこを目指す事にした。


 街道沿いを歩きながら、ライムをどうするかについてアネモネと話した。


「そのへんの森に逃がすのはダメなのかい?」


 それは、危険な気がするなあ。


 ヤクゥツードの冒険者ギルドの依頼掲示板クエストボードには、魔獣退治の依頼書もいくつか貼られていた。

 ざっと見た限りだけど、それなりに強力そうな魔獣の名も記されていた。

 勿論、それらを狩れる実力を持つ冒険者らがあの町にはいるのだろう。


 そんな場所で、スライムが一匹で生きていくのはあまりに過酷すぎる。

 ライムにとっては、あの廃屋の方がよほど安全だったのかもしれない。


「この子が暮らせそうな場所って何処かなあ?」


 僕はライムを見ながらつぶやく。


 虚弱なスライムでも、比較的危険の少なそうな場所は……。

 恐らく、アネモネも考えを巡らせ、僕と同じ結論に達したのだろう。

 しばらくすると、互いの顔を見合わせた。


「「はじまりの町」」


 僕は隣を歩くライムに問う。


「ライム、僕たちと一緒に来るか?」

「ん」


 理解しているかどうかわからないけど、ライムは頷いた。


 アネモネが、僕らを見やりながら言う。


「すっかり、キミになついているみたいだね」


 確かに、ライムは僕の手をずっと握りしめたまま、離そうとしない。

 僕の事を、本当にアンナの代わりと思っているのかもしれない。


 歩き続けていると、あっという間に日が暮れてしまった。


 さすがに、毎晩ラキュアの城でお世話になり続けるのも悪い気がする。なので、今夜は持参したテントで一夜を明かす事にした。


 森の中の開けた場所で、テントを張る。

 その作業をアネモネも手伝ってくれた。

 けど、杭の代わりにハンマーで思い切り自分の指を打つわ、ロープの結び方はめちゃくちゃ……。

 戦闘バトル以外、何もできない娘なのかなあ。


 おまけに朝起きると、テントは半壊状態だった。


 翌日も街道沿いを歩き続け、夜になったのでテントでもう一泊。


 その次の日の午前中、ようやく目的地である【エリム】の町へたどり着いた。


 ヤクゥツードより全然小さく、村に毛が生えた程度という印象だ。

 町を取り囲むのも高い塀ではなく、柵が設置されているのみである。


 ただ、門兵はしっかりとおり、入場税もしっかりと要求された。

 額も、同じく銀貨一枚。やはり、物品による納税も受け付けているらしい。


 再び砂糖で支払おうと思ったけれど、ひとつ問題がある。

 小瓶の残りの砂糖は、銀貨二枚ぶんにしかならない。今回はライムもいるから、あと一枚ぶん必要になる。


 アネモネだけ柵を飛び越えてもらおうか?


 そこで僕は、ごく簡単な解決策を思い付く。


 まず、町から少し離れた所に生えた樹木の根本に【刻印マーキング】を施す。


「ちょっと、ここで待っていてくれる?」


 アネモネとライムにそう言い置いて、僕はひとりで町の門兵の所へ向かう。

 砂糖で入場税を支払い、町の中へ入った。


 人目につかなそうな建物の裏手に、【刻印マーキング】をしてから、町の外へ【転移ワープ】する。

 すぐにアネモネとライムを伴い、再び町の中へと【転移ワープ】。

 結果、一人ぶんの税額で全員町へ入れた。

 前回も、こうすれば良かった。


 エリムは人もあまり多くなく、のんびりとした雰囲気の町だ。

 何だか、妙にホッとするな。


 それでも一応、冒険者ギルドが存在するらしい。

 さっそくその建物へ行ってみる事にした。

 ヤクゥツードのそれより全然小さい。民家を少し大きくした程度である。


 受付は一つだけで、栗色でセミロングの髪のお姉さんが座っていた。


 見た所、カウンター内にヤクゥツードで見た様な機器はない。

 お姉さんにも確認してみたが、冒険者登録にあたり、鑑定などは行わないらしい。


 僕はこの町で、冒険者登録する事に決めた。


「では、こちらに必要事項を書き込んでください」


 お姉さんから差し出された用紙の空欄を埋めるべく、僕は羽根ペンを手にする。

 勿論、氏名や種族の欄には、本当の事を記せないけど。


 その場ですぐ、冒険者の認証カードを発行してもらえた。こんなに簡単なんだ。

 大きさ素材とも、ゆうせんの隊員証ライセンスと少し似ている。


 ちょっと、うれしいかも……。


 たぶん、その感情が僕の顔に出てしまっていたのだろう。

 アネモネが、思い切りジト目をこちらへ向けてきていた。

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