ゆうせんは何より優先する
「ニイベまで、どれくらいで行けるの?」
以前、夕食の席で僕はパパにそう聞いた。
パパはかつて、一度だけニイベの町を訪れた事があるらしい。
「
「そんなに?」
「飛竜なら、半日で行けるぞ」
「徒歩なら?」
「馬鹿、歩いていける訳ないだろ」
……まじか、と思った。
けど、子供である僕にとって徒歩以外の選択肢はなかった。
一方で僕には、【
僕の【
転移先は、僕が実際に赴きいて【
その日から僕は、暇を見つけてはニイベを目指して南へ向かった。時間と体力の許す限り、ひたすらあるき続けた。
たどり着けた先で【
翌日、【
それを日々、繰り返した。
およそ一ヶ月が経った頃、海が見えた。
「おおおおおぉー!」
初めて見るきらめく海面の美しさに、思わず感嘆の声が漏れ出た。
さらに、ニイベらしき町も見えてきた地点で、僕は【
今、その地点へとあっという間に【
早朝ながら、ニイベの町は路地や大通りを多くの人々が行き交っている。
様々な種の魔族の他、
魚の様な頭部を持つ魔獣だ。
首から下は青い鱗に包まれているが、僕らと同様に二足歩行が出来る。
陸上では長時間の活動は出来ないはずだが、海辺の町では貴重な労働力らしい。ズダ袋や木箱等を担いで運ばされている。
町の中央広場を抜けると、細い路地の奥に海が見えた。
港には、嗅いだ事のない独特な匂いが漂う。磯の香りというやつだろう。
人影は疎らである。
町全体に、やたらとのんびりした空気が流れている気がした。
海の向こうはもう、人族の大陸なんだよね?
陸地から桟橋が伸びており、大小様々な船が停泊している。
が、いずれもボートや、近海での漁に用いる様な小型の船ばかりだ。大陸まで航行できそうな大きな船舶は一隻も見当たらない。
桟橋の入口で、緑色の身体をしたでっぷりと肥ったおじさんがパイプをふかしている。
たぶん、トロル族だ。
僕が近寄ると、彼は訝しそうに目を細める。
「あの、向こうの大陸へ行きたいんですけど」
海を指差しながら僕が言うと、トロル族の男性は思い切り眉根を寄せた。
「はあ?」
「船を出して貰えませんか?」
「おいおい、父ちゃんに教わんなかったのか? 海の向こうには人族っつうおっかねえ生きもんが、わんさか棲息してんだぞ」
「知っています」
「だったら、とっとと帰んな。母ちゃんが心配してんぞ」
そう言い捨てると、トロル族の男性はパイプを咥える。
門前払いか……。まあ、ある程度予想はしていたけれど。
仕方ない、早速アレを使わせて貰うか。
「あの」
再度、僕はトロル族の男性に声を掛ける。
「あ? まだいたのか、早く帰って……」
僕が掲げ持つ
顔を寄せてカードをまじまじと見つめてから、彼は立ち上がった。
「ちょっと、待ってろ」
トロル族の男性は、すぐ側に建つ小屋の中へと駆け込んで行った。
程なくして、小屋からトロル族の男性と、もう一人、白い帽子を被った年配の男性が出てくる。
顔が埋もれるくらいの白髭と側頭から生えた湾曲した二本の長い角は、ウルー族の特徴だ。
いつの間にか、その傍らには二体の
ウルー族の男性は、僕の
「うむ、本物だな」
「ま、まじかよ」
トロル族の男性は、とても信じられなさそうな顔で僕を見る。
ぽんと手を打つと、ウルー族の男性は威勢よく周囲に向けて言い放つ。
「よし、では今から出港の準備に入るぞ」
気付くと、側にいる
出港準備の為か、彼らは方々へ散って動き出す。そのうち一体は、桟橋を駆けていき先端から海へと飛び込んだ。
「良いんですか?」
僕の問いに、ウルー族の男性はニカッと笑って答える。
「ゆうせんは、何よりも優先する」
「え?」
「それが我が魔族の努めってもんだ」
……ゆうせん
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