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戦争終結の二週間前。
アルシェは祖国のため徴兵された兵士の1人だった。
祖国であるハウゼン共和国は国の全てを犠牲にしながらここ4年間ほど隣国のサルディーナ共和国と戦争をしていた。その戦争は経過していくにつれて過激になっていき、両国はもはや引くに引けない状態となっていた。動ける大人を徴兵し尽くした両国はついに未来の希望である学生までを男女問わず徴兵。前線に次々と投入していった。勝利を信じて。
アルシェやヨハン達はその時に徴兵された元学生であった。内地では祖国の勝利の情報しか聞かされていなかったので、きっと英雄になり祖国に勝利をもたらすのだと思っていたアルシェたちは初日からその現実に絶望する。
戦場を一言で表すのならば地獄であった。元は緑豊かな草原だったこの場所は砲弾などでばら撒かれた鉄分を吸収し、一面ドス黒い大地を形成していた。まともな木など一本もなくどれも枯れている。
毒ガスや砲弾などによって鉄分を多く含むこととなった大地には草花は一切見当たらない。視界のどこかでは必ず煙が立ち込めており、耳には呻き声がこびり付いて離れない。
「ここは本当に人間が住んでいた土地なのですか?」
アルシェ達は信じられない光景であった。
戦場に到着したアルシェはまず塹壕の整備をさせられた。
徒歩での移動で体はもうクタクタなのだが上官の命令に逆らった他の兵士が殴られ、蹴られる光景をその目で見てしまうと疲れていたとしても無理にでも体を動かすしかない。
「アルシェ、みんなの様子は?」
「皆、かなり疲れています」
学友達は皆一様に疲れた顔をしておりそれはヨハンやアルシェも例外ではない。
「そうだよなぁ……。まさか前線がこれほど辛いものとはな」
「ええ。私は戦場を騎兵が走り歩兵がそれに続くものを想像していました。まさか穴倉に籠り地獄の陣取り合戦をさせられるとは……」
数年前までの戦争は確かにアルシェの言う通りであった。騎兵が突撃し、歩兵がその後に続き敵を殲滅する。まさにロマンが満ちており、戦いは誉とされていた。
しかし時代は変わった。
今では塹壕を掘りそこで進軍してくる敵を待ち伏せる。さらに機関銃の実戦投入によって戦場はさらに膠着した。国は日々兵力不足に悩まされ50メートルの領土を獲得するのに何百という命が犠牲になっていく。平均の毎月の死者だけでも両軍合わせて約8000人も死んでいる。そんなこの世の地獄がこの戦場である。
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