第13話 オッチャン再びゴブリンと戦う

 俺は堀田岳男、クマタニ組勤務30歳、妻なし、財産なし、恋愛経験なし、穴を掘ること15年、掘ること以外は何もできない穴掘り男だ。そんな俺が今はゴブリンに囲まれて絶体絶命のピンチにある。


 昨日もゴブリンを相手に戦ったけど、無事勝てたのは、たまたま運が良かっただけだ。それに今日のゴブリンの方が少しだけ大きいような気がする。昨日ほどリーチに差が大きくなく、オッチャンに有利というほどではないのだ。……短いには短いのだが、素早さでカバーされている。多分。


「早く食わせろよ」


 インテリジェントソードの声が響いた。

 何言ってくれちゃってるねん! オッチャン命懸けなんやで〜。

 俺はインテリジェントソードを睨みつけたい気持ちやが、そんな余裕はない。四匹のゴブリンから目が離せないのだ。


「ギャギャ?」

「ゴブ!ギャギャギャ〜」


 インテリジェントソードの声が聞こえたのかゴブリン達も声の主を探してよそ見をした。チャンス到来。


「隙ありや〜!」


 オッチャンはよそ見をしたゴブリンに思いきって突きをお見舞いした。

 突きは見事にゴブリンの胸を貫いてゴブリンのが泡となって消えていった。その有り様を見て3匹のゴブリンがビビりだした。……ような気がする。


「あー、不味い!」

 インテリジェントソードの声が響く。


「グギャ! グギャギャギャ」

 ゴブリン達は怯えたように視線を彷徨わせる。


「オリャ、オリャ、オリャ」

(オッチャンの強さを思い知ったか!)

 俺は、急に強気になる。


 やけになったのか、ブーーンと1匹のゴブリンが棍棒を振り回した。


 危ないやないかい! 当たったらどうすんねん! 俺は驚いて飛び退いた。


 結構やるやないかい、コイツら!

 ゴブリンを睨みつけ、俺はそこからまた一歩後退する。実はオッチャンびびってます。ゴブリンの棍棒攻撃、当たったら大怪我やで……怖!


 ゴブリン達がまたにじり寄って来た。マジか〜、さっきは逃げ出してくれるかと淡い期待を抱いていたのに……。


 こうなったらこっちも剣を振り回して大声で威嚇するしかないで……。

 俺は大声で威嚇しながら剣を大振りした。


「だありゃありゃー!」


 ブウーーン


 ゴブリンが驚いて反射的に飛び下がった。びびってるのはこっちだけじゃあないようだな!


「ブハーー!」

 俺は大きく息を吐いた。


 ゴブリンが俺を殺意の籠った目で睨みつけている。さっきまで怖かったけれど今は恐怖感が麻痺してしまったのかそれほど怖くはない。

(しかしコイツらもやる気やな! マジの攻撃が飛んできそうやで)

 俺もゴブリンを睨みつけた。


 睨み合いの時間が続く。ジリジリ囲もうと動くゴブリンの動きに合わせて俺もジリジリと後退しながら囲まれないようなポジション取りに気をつけた。


「ゴブギギギギャ〜」

「ギャ! ギャギャギャギャ!」


 何言ってまんねん、ゴブリン語はわからんて!

 大声で威嚇してくるゴブリンにこっちも大声で威嚇し返す。


「どかーーん!」


 ……て何も爆発してないけどね。

 でもオッチャンの大声で少しビビったようやな……。


「オリャオリャ!」


 右から囲もうと近づくゴブリンを剣を振り回して追いやり、すぐに振り返って左のゴブリンに剣を振る。……全然遠くて剣が当たりそうもないけどね。

 一匹倒したから今は一対三や……なんとかあと一匹倒せれば、もしかしたらゴブリンは逃げ出すかもしれない。俺はへっぴり腰で剣を構える。


 近寄ろうとするゴブリンに剣を向けると、そのゴブリンが引き下がる。また別のゴブリンが近づこうとするのでそいつに剣を向ける。そうしながら俺はジリジリ後退した。

(やべ〜、なんか押されてる気がする。)


 やっぱり昨日のゴブリンよりでかいし持っている棍棒も結構でかいというか長い。もうちょっと剣が長ければ少しは有利な気がするのにリーチに差がないと心に余裕が無い。


「残念だが俺は長くなれねーぜ」

 インテリジェントソードの声がした。

(そうですか、そうですよね〜。そんな都合の良いことはないですよね〜)


 インテリジェントソードの声にまたゴブリンがビックリして周囲に敵がいないかキョロキョロした。


 チャーンス!


 俺はすかさず突きをお見舞いした。

(一瞬の油断が命運を分けるんやで〜! へへへ!)

 一匹のゴブリンが胸を疲れて泡になって消えていく。俺はゴブリンのいた場所を駆け抜けて、また残ったゴブリンに睨みを効かせた。一瞬の油断が命運を分けるーーそれは自分にも言えること。オッチャンの額に汗が滴る。

(ふふふ、これで二対一! 初めよりだいぶ有利になったがな!)


 二対一でも不利には違いない。ゴブリンを睨みつけながら隙を窺う。それはゴブリンも同じだ。また睨み合いの時間が続いた。


 遠くからメアリーアンちが応援を連れてきているらしい声と足音が聞こえてくる。


(やった! 援軍が……助かった)

 援軍の来訪に気付いたゴブリンが慌てて逃げ出した。


「ザマあみやがれ!」


 相手が逃げ出したとみるや超強きになるオッチャン。

 ゴブリンの姿が暗闇に消えると俺はヘナヘナと腰を落とした。

 メアリーアンが三人の若者を連れて戻ってきたのはそれからすぐしてだった。









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