第14話 同類
俺は堀田岳男、30歳。穴を掘る事以外は何もできないと思っていたが最近ゴブリンを倒して冒険者でもいけるんじゃね〜とか思い出している。やる気はないけどね、怖いから。
あれから俺は平常通りにクマタニ組の仕事でトンネルを掘っていた。
月曜から金曜まで毎日毎日トンネル工事の穴掘りだ。
山にトンネルを通すと山を越えずに裏側に行ける。移動時間が大きく短縮できるのでその恩恵は大きい。
今日は花の金曜日だというのに俺は直帰で直寝の予定だ。
彼女もいないし〜。筋肉も張ってるし〜。仲間のオヤジ達と飲んでても彼女ができるはずもね〜し。よくもまあ、こんな暮らしを15年をも続けていたものだわ……トホホ……。
明日は土曜日なのでメアリーアンと宝探しに行く予定。
最近チョット楽しくなってきているような……イヤ! 気のせい気のせい。
あの子と関わって以来二回もゴブリンと命懸けで戦う羽目になった。オッチャン、命懸けはイヤですよ……ほんと。
「おい、岳男! お前最近やけに機嫌がいいじゃねーか? 女でもできたのか?」
なんともトンチンカンな言葉をかけてきたのは十五年来の職場の同僚多田野卓郎、三十歳彼女いない歴三十年だ。俺の数少ない同類……になるんだろうか。
俺とは別に仲が良いわけでもないし、気が合うという訳でもない。
そもそも俺は友達付き合いなんてものは苦手なのだ。だがこいつは俺に自分と同じ臭いを感じたのか、よく俺に声をかけてくるのだ。
「そんな訳ないだろう〜。今日も直帰だ、直帰。女ができたらそいつの所に通ってるわ」
俺はうざったそうに答える。
「だよな〜、知ってたよ。実はお前に良い話があるんだぜ〜」
俺の肩に手をかけて耳元に口を寄せる卓郎。
こいつの良い話が良かった試しはない。
「はい、はい。そいつは良かったな」
俺は相手にしたくない感をどっぷり漂わせて返事をする。
「そう言うなよ。本当にいい話なんだって、こんな話は二度とないぜ」
にやけた笑いがなにか自信がありそうに思えた。
卓郎が俺の耳元で囁く。
「俺、昔の友達とこの前ばったりと会ったんだわ、そしたらそいつ冒険者をやって相当稼いでいるんだとよ。俺ならかなり力がありそうだから一緒に冒険者をやらないかって誘われたわけよ。どおだい、お前も一緒にやらねーか? 力のあるやつなら歓迎なんだとよ」
俺は白い目で卓郎を眺めた。
「かなり稼げるらしいぜ。お前なら力は申し分なくありそうだしな。俺たちなら相当稼げるぜ」
卓郎は嬉しそうに言った。
(甘い! 甘すぎる! 冒険者って言ったらアレやんか。魔物とか魔獣とか、メッチャ強くてキモい奴と闘うんやで! それこそ命懸けやん!)
俺は卓郎から目を背けて言った。
「そんなの興味ないなあ。冒険者ってアレじゃね? 命懸けやん。俺は命はかけられね〜」
本当にこいつの良い話は、良い話だったためしがない。全く聞くだけ時間の無駄だ。
「イヤイヤ、それがよ! 俺を誘ってくれた三人組のパーティーなんだが、コイツらがメッチャ強いんだぜ! だから戦いはそいつらに任せれば良いんだと。俺たちは見つけたお宝を運ぶのが仕事なんだ」
なんだか都合の良さそうな解釈を、勝手にやってるに違いない。
そんな上手い話があるわけがないのだ。自分の身は、自分で守らないと……誰が守ってくれるというのだろう。
「無理無理! 俺怖いの嫌いだから!」
こいつ、ゴブリンと戦ったことないから、こんなことを言ってるに違いない。あれは本当にビビるんやから。まかり間違えば本当に死ぬから……。俺は卓郎の誘いをキッパリと断る。
この世界では、人間と魔物とはほぼ棲み分けができていて、普通に生活する分には魔物に遭遇することは珍しい。発見管理されたダンジョンでは、魔物が漏れ出すことはまずないし、ただの森でも魔物に遭遇するのは本当に稀なことだ。野良の魔物はそれほど多くはないのである。
合わなくていい魔物にわざわざ会いに行くのなんて真っ平ごめんである。
「イヤイヤイヤイヤ、本当にーー」
「イヤイヤじゃねーから。あぶねーから。冒険者なんて武術の心得がある奴がやるもんだから!」
俺は卓郎の言葉を遮る。
「仕方ねーなあ! 俺が親切に誘ってやってるのに。もう良いや」
卓郎がやっと諦めたようでホッとする。
「ところで卓郎、お前、そいつらとどこ行くの?」
危ないところに行かなければ良いなと思って聞いてみる。
「あーん。えーと、北の方にゴブリンの出る森があるだろう。その奥の方に秘密のダンジョンがあるんだとよ。まだ、あまり人に知られてないところらしいぜ。そこにお宝があるんだと。誰にも言うなよ」
「そんなところがあったのか? ふーん」
そういえば、この前ゴブリンに襲われたのは北の森の手前の丘周辺だったと思い起こす。北の森のダンジョンから外に出てきたゴブリンに襲われたのかなと、根拠もない推測をした。
あの辺は危ないからもう行きたくないなどと思いながら、まだまだ何か埋まっていそうだと欲に駆られる。
「じゃあな! 気が変わったら言ってくれ。荷物持ちは増やしたいらしいぞ」
卓郎が掌をひらひらさせながら去っていった。
「ダンジョンね……あいつ、戦えないくせに、そんなことして、無事なら良いけどな」
(俺もちっとは剣を使えないと危ないかな? 結構ゴブリンの襲撃受けるしな……)
朝、素振りでもしようかなとか考えながら、俺は卓郎を見送った。
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