第6話 オッチャンゴブリンと戦う

 俺は堀田岳男、30歳独身、どういう訳か今は五匹のゴブリンと睨み睨まれる関係に有る。


(オラオラこのシャベルが目に入らぬか!)


 俺はシャベルを出鱈目に振り回してゴブリンを威嚇した。

穴掘り生活十五年、シャベルの使い方はお手のものだが戦闘経験は一度もない。


(早く諦めて逃げてくださいゴブリンさん、お願い)


 俺の背中でメアリーアンちゃんがさっきの剣とプリンちゃんを抱えて震えている。


 ゴブリンの持つ棍棒や包丁よりシャベルの方がリーチが長いとは言え、五体一は不利過ぎる。なんとか早く一匹でも減らしたい。


「オーリャあ!」俺のシャベルがゴブリンの顔面にヒットしてゴブリンがふらついたと思ったらぶっ倒れた。

(やったぜこれで四対一だ)


「へへへへへ!」

 俺は不敵な笑いでゴブリンをいかくした。

(本当はオッチャンオシッコ漏れそうなほどビビっているのよ)


 俺のはったり笑いが効いたのかゴブリン達が少し引き下がる。してやったりだ。


「オレ、オレ!」

 俺はシャベルを突き出してゴブリン達を威嚇しながらなんとかもう一匹倒そうと隙をうかがった。


 一匹ノックアウトしたとはいえまだ相手は四匹もいるのだ。まだこっちが不利なのは間違いない。


 戦闘経験皆無の俺だがチビで手足が短い上に、武器も短いゴブリン相手ならシャベルを持つ俺でもなんとか戦えるのかもしれない。


 なんて思ったのが油断だったのか突き出したシャベルをゴブリンが棍棒で叩き落としやがった。


 ガツン!


(ヤベ!案外強い打撃力)

 シャベルを拾おうとすれば頭を殴られご昇天という感じだ。


 すぐさま後ろを向いてダッシュ。

 俺はメアリーアンを引っ張って逃げようと試みる。


「はいこれ」

 武器を失った俺にメアリーアンが俺にさっき発掘した剣を手渡してきた。


 確かにこれは戦闘道具。でもオッチャン剣なんて振ったことない。


 ないよりはマシだと剣を持つ。

(オット、鞘から剣を抜かなきゃあなあ)


 俺はオンボロ剣を鞘から抜いた。


 錆びていて抜けなかったらそのまま殴るしかないと思っていたけどあっさり抜けた。


(もしかして切れるかも?)


 俺は一気に調子づく。


「オラオラ、切るぞ!切っちゃうぞー!」


「ゴブー! ゴブゴブ!」


「ゴブーー!」


「なに言ってるかはわからんが、俺の攻撃を受けてみろ! オリャ!」


 ゴブリンは生意気にも俺の剣撃を躱しやがった。


 クッソ! まあ俺も剣を振るのは初めてだから、当たらなくても仕方がないけれどね。


「オリャオリャオリャオリャー!」

 俺は滅多やたらに剣を振り回す。


(やるなあ! ゴブリンは弱い魔物と聞いていたがここまで見事に俺の攻撃を躱すとは……なかなか侮れんぞ!)


(四匹もいたら一匹くらいトロいやつがいても良いと思いますが?)


(うわー! 危ね。いきなり棍棒で殴ってくるな。もう少し長かったらやばかったぞ!)


「タケさん頑張って!」


 黄色い声援に俺のテンションが上がる。

(メアリーアンちゃんに応援されるなんてオッチャン嬉しいよー!)


 タケオさんからタケさんに一字短くなって 二人の中も一字ぶん近づいたような気になる。勝手にね。


 ハッスル気味に剣を振りまわしたら偶然にもゴブリンにヒットした。

 どうした訳かゴブリンが泡となって消えていく。


(何が起こったのだろうか? 普通剣が当たったら切れて血が飛び散ったりするんじゃないの?)


「アー、マジイ。でも久しぶりに食ったなあ。もっと食わせろ! 腹減ってんだ」


 誰の声だかわからないけど声がした。


「へ? 誰ですか?」


 俺はあたりを見渡す。


 三匹のゴブリンが俺を囲んで固まっていた。


 仲間が泡になって消えたのだ。恐怖に引きつっていたとしても不思議はない。


 俺はこの隙を逃さず一番近くにいたゴブリンに斬りかかった。


 俺の攻撃はフリーズしているゴブリンに見事にヒット。ゴブリンがバッタリと倒れた。


「魔石だよ、魔石を切って俺に食わせろ」

 また声がする。


「ゴブ〜!」

 残った二匹のゴブリンが背を向けて逃げ出した。


「ゴブリンの胸の真ん中に俺を突きさせ!」


 俺は声の主にやっと気がついた。


 俺の手にしたボロい剣が話していたのだ。

(マジっすか?)

  俺は手にした剣をマジマジと見つめた。


「早よせんか! それと向こうに倒れてるゴブリンも食わせろよ!」

 剣の声が響く。


 俺は言われた通り二匹のゴブリンの胸に剣を突き立てると二匹のゴブリンが泡となって消えていった。


 不思議な現象にじっと剣を見る俺だった。







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