黒い悪魔は壁を歩く

高石剣流

真夏の夜に

寝苦しい夏の夜……。

寝ていた俺は、腕を誰かに触られるような感覚で飛び起きた。


薄暗い寝室の中、腕を見ると何かがモゾモゾと動いており、俺は小さい悲鳴と共に動く物体を振り払った。


寝室の明かりをつけると、床の上に黒い悪魔――特大のゴキブリがいた。

大きさは5センチほど。しきりに触角を動かし、辺りの様子をうかがっているように見える。


俺は別の部屋に移動すると、悪魔退治の噴霧器――アースジェットを持ち、寝室に戻った。


奴がいない――。


周囲を見渡したが、どこにも姿が見当たらない。だが、このままでは眠れるわけがない。

俺は全ての部屋の明かりをつけ、黒い悪魔を探した。


台所、リビングルーム、トイレ、バスルーム。

血眼で探していると、背後でかすかにカサカサという音がし、俺は振り返った。


リビングルームの天井の隅に奴はいた。


俺はそろりそろりと近づき、アースジェットを奴に向けて噴霧した。

毒ガスをもろに浴びた黒い悪魔は、脱兎の如く壁を伝いながら逃げる。

壁を猛スピードで走る姿は、まるでSF映画に登場するモンスターさながらである。


俺は狙いを定め、二度三度と奴に毒ガスを浴びせた。


奴はメタルスライムのような速度で逃げ回っていたが、次第に動きが緩慢になり、やがて床にポトリと落ちた。


黒い悪魔が床の上で七転八倒する。断末魔のダンスは吐き気を催すほどおぞましいが、俺はこの時点で勝利を確信した。


俺はガムテープを20センチほど切ると、黒い悪魔ごと床に貼り付けた。

ガムテープをはがすと、粘着部分に奴はべったりと貼りついていた。


こうなるといくら俊敏な奴でも、動き回ることは不可能である。


俺はガムテープにぐるぐる巻きにする。

勝利の笑みを浮かべながら俺は、ガムテープのミイラををゴミ箱に捨てた。


午前2時過ぎ。

俺は安堵のため息をつくと、再び眠りについたのだった……。(了)

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黒い悪魔は壁を歩く 高石剣流 @takaken113

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