第一章 4
「如月先生、富川です」
インターホンを押しても応答はない。
「お前、如月をここまで送ったんだよな」
「ええ。確かに」
「如月、いないのか」
富川は窓に近づくと目を見開いた。
「どうした」
「咳が聞こえました。如月先生」
富川が言うとドアが開いた。
如月はドアに寄りかかっている。
「如月」
如月は汗をかいている顔を天谷に向けた。
「大丈夫か?」
如月は首を縦に振った。
「上がってもいいか?」
「面白いことは何もないと思うけど」
「構わん。上がるぞ」
富川は天谷に続いて中に入った。
「やっぱりな」
天谷が言っても如月は焦るような表情を見せなかった。
「やっぱり…」
如月はオウム返しをした。
綺麗に片付いている室内と対照的に机の上は乱雑に散らかっている。
「お前、仕事休んだ方がいいんじゃねえか?」
「そんなわけにもね」
なぜ机の上以外は片付いているのかが富川は気になった。
「片付いてますね」
「汚す気力もないので」
如月は無表情で言った。
家ではいつもこんな無表情なのだろうか。
そう思うと胸が締め付けられるような気がした。
「如月」
如月はゆっくりと振り返った。
「捜査のことはどう思ってるんだ?」
ゆっくりと下を向くと如月は言った。
「如月っ」
天谷は如月の手を取った。
その手は小刻みに震えている。
「捜査…の事…どうも思ってない。僕の協力が必要なら頼ってもいいし…」
「ほんとだな?」
「嘘をついても何もならないよ」
如月は天谷の手を握った。
「よし、お前を信じる」
「信じてもらわなきゃ困るよ。僕は信じてるから」
如月は耳の近くを軽く叩いた。
「それで?他には?もう用がなかったら帰って欲しいんだけど」
「心外だな」
「心外も何も悠介が急に来るからでしょう。用がないなら帰って。耳鳴りがしてくる」
天谷はげんなりとした表情をした。
「はいはい。帰るよ」
「またよろしくお願いします」
「ええ、また」
如月は小さく会釈した。
「如月先生はいつもあんな感じだったんですか」
「いいや。外ではお前がいつも見てる癒朱だったな」
「いつも見てる…」
富川は俯いた。
「そんな顔をするな。あいつは地頭がいい。お前が思うような馬鹿じゃねえよ」
「はい」
「まあ、明日からも普通に捜査しろ。そっちの方があいつにとっても気楽でいいだろう」
富川は無言で頷いた。
明け方 Leno @Leno_novel
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。明け方の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます