第6話 恥ずかしい姿。
少し緊張しながらも俺は彼女の家のインターホンを押す。だが、押す前に後ろから声をかけられる。
「由花のお友達?」
「は、はい!由ちゃんにプリントを届けにきました!」
いきなり後ろから声をかけられたものだから少しびっくりした。
後ろには通ると絶対に振り返るであろうほどの美人なお姉さんが近所のスーパーの袋を片手にこちらを注視している。何処となく彼女に似ている、気がする?
「もしかして、仁太?」
「え?そ、そうです…」
「やっぱり!大きくなったね!あ、仁太は私のこと覚えてるかな?由花の姉でーす」
「え!?鈴姉!?」
藤咲鈴音(ふじさき すずね)。俺と6歳離れた由ちゃんのお姉さんだ。
「驚いてるってことは〜もしかして私が誰か分からなかったな?」
「うん…昔もそうだったけど今はもっと綺麗になったね〜」
「あんたは昔から変わらずのほほ〜んと口説くわね…さ、上がって上がって由花にプリント届けに来たんでしょ?」
プリントを届けたらすぐに帰ろうと思ったのだが、腕を掴まれ半ば強制的に家へと連行されてしまった。
鈴姉は買って来たものを冷蔵庫へとしまう。俺は手伝おうかと思ったのだが鈴姉に「あんたはお客でしょ!」と気を使われリビングのソファへと腰掛ける。リビングは掃除が行き届いており俺は場違いなのでは?とソワソワしてしまう。
「お姉ちゃん…帰って来て…たの?」
瞼を擦りながらリビングへと入ってくる由ちゃん。パジャマはだらしなくはだけており俺は見ては行けないと一瞬で悟り逆に振り返る。
「アウチ…」グキ
「熱はもう大丈夫なの?」
「うん、大丈夫だよ?」
「ならヨシ。ソファの方見てみな」
「ん?」
「お、お邪魔してます…」
俺は後ろを向いたまま手を上に上げる。
「…は?ち、ちょっと!お姉ちゃん!!仁太来てるなら早く言ってよ!!!」
ドタドタと慌てながらリビングを後にしたようだ。
「ひひ、ドッキリ成功だね♪」
悪戯っ子のように笑う鈴姉は大人になって見た目が変わっても子供の頃と同じように悪戯好きなようだ。
夕飯の買い出しに行っていたらしいのだが買い忘れがあったようで鈴姉は家を空ける。必然的にこの家には俺と由ちゃんだけとなる。
「これ、頼まれたプリント」
「…ありがと」
「…怒ってる?」
「別に、仁太には怒ってない」
「えっと…風邪は大丈夫?もしかして昨日俺が無理に連れ回したからじゃ…?」
「違うわよ!仁太のせいじゃない。私が…ちょっとね…」
ばつが悪そうに声が小さくなっていく。
「とにかく、仁太は関係ないの!だからそんな顔しないで。ほら!もう元気だから明日また学校で会いましょ?」
「分かった…」
この時俺は幼い時の記憶を思い出していた。昔もこんな事があった。俺のせいかもと罪悪感を感じていた時、彼女は今日と変わらない笑みで優しく。
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「あれ?仁太もう帰ったの?」
「うん、ちょっと前にね」
「ご飯食べてけば良かったのに。由花が何で風邪を引いたか教えてあげたかったのに〜」
「お姉ちゃん!?」
「うっそ嘘〜冗談よ〜」
「もう!」
由花が風邪を引いた理由…それは長湯である。長湯した理由は、絶賛片思い中の彼に手を握られたこと。その幸せを噛み締めていた為である。
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