第7話 懐かしの顔です。
今日は身体測定&体力測定の日。20mのシャトルラン以外の全ての項目を今日中に済ましてしまうハードスケジュール…
「気乗りしないな〜」
「まあ面倒なのはそうだな。だが女子の体操着を間近で見れる数少ない場でもある訳よ」
そう言い康ちゃんは二人組の女子を指す。指した方向を見ると由ちゃんと夜巳さんが仲睦まじく会話をしている微笑ましい光景。
「…少しは頑張ろうかな〜」
「単純な奴」ボソッ
俺と康ちゃんは二人組になりそれぞれの項目を埋めていく。身長、体重、etc.
ある程度の項目を埋め終わりふと横を見ると誰もいなくなっている事に気づく。
「あれ?康ちゃん?てかここ何処だっけ?」
身体測定は項目ごとにそれぞれ別々の教室へと移動しなければならない。その移動の間で逸れてしまったのだ。
「全く、康ちゃんは方向音痴なんだから」
逆だ。
マイペース且つ方向音痴なのは仁太の方であり、迷ったのも彼である。
残りの項目はシャトルランと50m走の記録以外埋まっていたこと。世話係の康二が居ないこと。それらの条件により彼の取る行動は一つであった。
「サボろっと」
誰もいないであろう階段下の小さなスペース。少々埃っぽいがまあ気にするようなものでもない。腰を下ろし項垂れる。何もない小さなスペースは仁太にとって心地よい場所だった。久々の一人の時間。
「眠い…ふぁ〜…」
大きなあくびの後、仁太は夢の中へ。
何時間、いや何分か経った後だろうか?くすぐったいような感覚に目を覚ます。
「ん、?」
「気持ちよさそうに寝てる…ふふ、あ起きた?」
「カトちゃん?」
「そうですよ、中学校卒業ぶりだね。元気してるかい?」
寝ぼけた目を擦りながら意識を現実へと引き戻す。
丸眼鏡、三つ編み二つ結びの彼女は加藤桃子(かとう ももこ)。中学の時に友達になって俺の過去を知ってもなお、関わってくれた数少ない友人だ。卒業と同時に連絡が途絶えたので同じ高校に通っていることを知る由もなかった。
「身体測定、体力測定は全学年で行われるからね。君の姿を見た時私も驚いたよ。まさか同じ学校だったなんてね。ま、これも何かの縁だ。これからも仲良くしてくれ♪」
「こちらこそ~それで今何時?」
「えっと、お昼を過ぎた辺りかな。それよりも、君はまだ50m走の記録終わってないだろ?シャトルラン以外は今日中に終わらせないと先生とマンツーマンで居残りらしいから早めに終わらした方がいいんじゃない?」
「それは嫌だな~。んじゃま、いっちょ走りますか。まあ手は抜くけど(ボソッ」
「君の足の速さは知ってるからね、もし手なんて抜いたら…分かるね?」
「精一杯頑張らせていただきます!」
どうやら、俺の悠々自適な生活はカトちゃんが関わるとそうではなくなるらしい。お願いだからもう少し手心を加えてほしいものである。
少し躊躇いながら同学年の50mの列に入る。順番が回って来て計測位置、スタート地点に立つ。タイムを記録するためゴール付近にいるカトちゃんは手を振る。準備OKの合図である。先生のスタートのホイッスルと共に全速力で駆け出す。走る前は時間がゆっくりであったが走り終わるとそうでもないのは不思議だなといつも思う。
「お疲れ、やっぱり衰えてはいないね。6.7秒だよ」
「一生分走った。もう走りたくない~」
そんな仁太を余所に周りの同学年の生徒たちはヒソヒソと話し出す。
「ね!あの人めっちゃ早くない?」
「私も思った!なんかの部活入ってるのかな!?」
「あの人!藤咲さんに話しかけられてたよ!」
「え!?藤咲さんの彼氏なのかな!?」
本人の与り知らぬところで話が大きく、変貌を遂げていることをこの時の仁太は知る由もなかった。
「この騒ぎ…じんたんが本気で走ったのか!?嘘だろ、あんなに目立つの嫌だった奴が…って加藤の仕業か、同じ学校だったのかあいつ」
「和栗君、あの子誰?随分と槙野君と仲良いみたいだけど…」
「えっとあいつは…」
「和栗君!仁太ってあんなに速かったの!?いつものほほーんとしてるのに!!」
一方の康二は夜巳、藤咲の質問攻めを一人で受けていた。
「俺だけ苦労してるって!!!」
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