第8話

「おお、ちゃんとピントも合ってる。」


望遠鏡から離れて、先輩がぽつっと言った。


「暗闇にいるみたいだよな。」


「え?」


聞き返すと、ちょっと照れたような顔になる。


「いや、そうやって努力してるのに報われない時とかさ。どうすればいいのかわからなくなって、焦ったり不安になったりするだろ。僕もたまになるけど。」


でも、と続ける。


「死のうと思う訳でもないから、生きているしかなくてさ。苦しいよな。」


綿矢先輩がそんなことを言うとは思っていなかった。

どう言えばいいかわからなくなって、私はじっと先輩の顔を見つめ続けた。


「でもまあ、生きるのが無駄ってことは、絶対無いから。今僕が考えてさ、あれ無駄だったんじゃないかってことは結構あって。全部を肯定できるほど大人じゃないし。けど最高に幸せだって時間は確かにあったからさ。たぶんこれからもあると思う。」


「生きてくって、結局そんなもんじゃないかな。真っ暗な場所で探してた方が、見つけた星も輝くものだし。」


暗闇に目が慣れてきたのか、見上げるとたくさんの星が見えた。


先輩の言うことは、奇麗事といえばそう言えるものでもあって、「なるほど」とまではいかない。

でも、綿矢先輩でもそんなことを言うくらい、生きていく辛さって普通にあるものなんだと思うと少しほっとした。


「苦しいなあって思うのって、悪いことじゃないんですよね。」


「そりゃそうだろ。」


ふっと笑った綿矢先輩を横目に、私はまた望遠鏡に向き合った。

さっきの土星をもう一度覗こうと、今土星がありそうな位置をぐるぐると探す。


それらしい星を捉えてピントを合わせると、リングまできれいに見えた。


「やっぱりすごいなあ。」


ふっとため息をつく私の耳を、「好きだよ」とささやくような声がくすぐった。


「好きですよ。たぶん私も。」


ちょっと休憩して、昼休みは部室に行こうかな、なんて思った。

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雲のいずこに星、宿るらん ひかり @hikari-kouduki

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