第2話
「りり〜ちょっと!私これだけおいて職員室行ってくる!」
「どしたの、呼び出し?」
「春休みの課題出してなかったから面談って言われた!」
慌ただしくやってきたのはりり先輩と同じ、二年生の先輩。
「よいしょ」とリュックサックを右側のスペースに放り込むと、「あつ〜」と言って顔をしかめた。
所在なく座っている私に気づいたらしく、一瞬、目があった。
「あ、入ってくれた!ありがとう、ちょっとあとで、また・・・」
話している途中で、その先輩はもう部室から飛び出して駆け出していた。
「あ〜あれ、みな。副部長。」
落ち着いた声を聞いて振り向くと、何冊か教科書を抱えた先輩が立っていた。
「あ、駒場先輩。」
駒場先輩には、見学のときにお世話になった。
活動日や内容を教えてくれたり、望遠鏡について説明してくれたり。
りり先輩によると、二年生随一のしっかり者らしい。
「みな先輩、ですか。」
さっき出ていった先輩を思い出す。
くりくりした目の、美人な人だった。
「見た目は厳しそうに見えるけど、親しみやすいから。あんな感じで。」
さっきみな先輩が走っていった方向に目をやって、先輩はリュックサックをみな先輩のものの隣に置く。
「あ、リュックサック置きなよ。邪魔でしょ。」
目一杯自分に引き寄せて、リュックサックを持っている私に気づいて駒場先輩が言った。
「ありがとうございます、こま・・・」
駒場先輩、といいかけて、あれ、と思った。
りり先輩、みな先輩、駒場先輩。
下の名前で揃えたほうがいいだろうか。
「駒場先輩って、名前・・・」
「あ、ゆいっていいます。駒場ゆい。」
「じゃあ、ゆい先輩ですね。」
お言葉に甘えて、私は自分のリュックサックを先輩たちと同じ場所に置く。
「どっちでもいいよ〜」
ゆい先輩は3つのリュックサックを立てて揃えてから、私の隣に座った。
「学校、慣れた?」「まあまあです。」そんな会話をしていると「遅れました。」と男の先輩が入ってきた。
確か、この人が唯一の三年生なのだ。
その顔に見覚えがあった。
「あ、朝の。」
向こうも気づいたらしく、軽く会釈してくれる。
思った通り、特に気にしてはいなかったようだとほっとした。
荷物を右のスペースに置いて、左側の本棚から一冊の本を手に取った。
「綿矢先輩。先輩はねぇ、すごいよ。」
そのままパラパラとページを捲る綿矢先輩を見上げて目を細めるようにして、ゆい先輩が言った。
いわく、綿矢先輩は「ものすごく頭がいい」らしい。
コンピュータにも慣れており、天文部のほとんどの事務作業をしてくれているのだという。
そうこうしているうちに、さっき出ていったみな先輩が戻ってきた。
「あ、先輩こんにちは〜。」
遠慮気味な声がかかると、綿矢先輩は持っていた文庫本から顔を上げる。
「それじゃあ、赤井さんも来たことだし始めますか。」
「自己紹介しましょう。自己紹介。」
綿矢先輩が始まりを告げた途端、それに被せるようにしてみな先輩が言う。
「え〜何言うの?」
手に持っていたスマホの電源を切り、机に裏返してりり先輩が言った。
「え、名前、学年、クラス、趣味あと・・・好きな天体?」
誕生日席に座りかけて、座布団がないことに気がついたらしい。
「すみません先輩、座布団取ってもらっていいですか。」
「はいはい。」
綿矢先輩は立ち上がって、本棚の上に積み上げてあるもののうちいくつかをおろした。
下の方に埋まっていた座布団を隣にいるりり先輩に渡した。
バケツリレーで、座布団がみな先輩に渡る。
「あ、これ、投影機だよ。」
降ろされてきたもののうちの一つを指さして、ゆい先輩が言う。
「プラネタリウムの、ですか?」
「そうそう。昔は上映会とか開いていたらしいんだけどね。またやってもいいかもしれないけど。」
へぇ〜と相槌を打った。
それ以外のリアクションが思いつかなかったのもあるけれど、意外にちゃんとしてる部活なんだな、と思った。
「誰から行く?行きます?」
誕生日席に腰を下ろしたみな先輩が、一堂の顔を見回した。
「みなからどうぞ~」
手でメガホンの形を作って、りり先輩が言う。
「え~私から?まあいいや。二年七組、赤井みなです。オーディション番組を見るのが好きです。えっと、天体・・・どうする、天体、いる?」
「いるでしょ。」
綿矢先輩がニヤっとしてそう言うと、「ええ~」と三人の二年生の先輩たちが笑う。
「好きな天体は、夏の大三角です。去年見つけ方覚えたから。」
どうぞ、と手で示しされたりり先輩が次に話し出す。
「二年三組の三好りりです。まあ音楽・・・が好きで、K-POPとかよく聴いてます。好きな天体はベテルギウスです。」
「はい。」とりり先輩が話し終わる。
「次は私かな。」とゆい先輩が始めた。
「二年八組、駒場ゆいといいます。趣味は読書かな。カノープスっていう、見られたらラッキーって言われてる星が好きです。」
「次一年、か先輩。」
「先やろうか?」みな先輩の言葉を受けて向かいの綿矢先輩が私の顔を覗き込んだ。
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