第35話 アルのお土産 9

「手が痛くなる直前、どこに行った? だれに会った?」


 アルの質問に、不思議そうな顔をするジュリアンさん。


 まあ、質問としては変だもんね。

 だって、普通、手を痛めた理由として、何をしていたか聞かれるのならわかるけれど、アルは、どこで、だれから邪気をつけられたのかを探る質問をしてるんだから。


「そう言えば、グリシア侯爵家に行った後からだ」


「グリシア侯爵家?」


 アルの瞳が、一気に鋭くなった。


 グリシア侯爵家といえば、第二王子のお母様である側妃アメルダ様のご実家。

 グリシア侯爵様は、アメルダ様のお兄様にあたる。


 今の王様には三人の王子様と一人の王女様がいらっしゃる。

 王妃エリザベス様の息子であるイグアス王太子様と他国の第二王子に嫁がれたローザリア王女様。


 そして、側妃アメルダ様の息子、第二王子のフレッド様。


 それから、側妃コリーヌ様の息子が、第三王子のアルフォンス殿下ことアル。


 私はアルと婚約を結んだ時、王様にご挨拶するため、王宮へ行った。

 でも、そこには、側妃アメルダ様と第二王子のフレッド様はいらっしゃらなかった。

 そのあたりを聞くと、アルの表情が凍った。


「気にするな。俺も王子を辞めて辺境に行けば、完全にあいつらとは縁がきれるから」


 確か、そう言ったよね。


「ジュリアン。グリシア侯爵の屋敷によばれたのか?」


 アルが、冷え冷えとした声でジュリアンさんに聞いた。

 その声に、ぶるぶると震えてみせたジュリアンさん。


「アル、怖いって……。ライラちゃんに嫌われるよ? 確かにグリシア侯爵の屋敷には行ったけど、グリシア侯爵には会ってない。その娘とお茶をしただけだから」


 グリシア侯爵家の娘って、どっかで聞いたような記憶が……。


「あっ! あの華やかな美人の……、確か、イザベル様」


「あれ、ライラちゃん。イザベル嬢を知ってるの? 絶対アルが会わせないと思ったけど……」


「アルと婚約する前というか、あの色々あったパーティーで、元婚約者に紹介されて挨拶をした方だったから……」


「ああ、なるほど。ごめんね、変なこと聞いて」


 ジュリアンさんが気まずそうに謝ってきた。


「いえいえ」

と答える私だけれど、隣のアルの眉間のしわが深くなっている。


 そう、グリシア侯爵家のご令嬢イザベル様と会ったのは一度だけ。

 パトリックとアンナさんの事件がおきる直前、パトリックに婚約者として紹介されながらホールをまわった時、ご挨拶をした一人だった。


 なんで、記憶に残っていたかというと、美人だけれど、すごく態度が大きくてびっくりしたんだよね……。

 

 貴族社会に疎い私でも、さすがに、貴族社会の序列は身に染みている。

 侯爵家の令嬢が、公爵家の子息にあんな態度で接するなんてありえない。

 驚いている私に、側妃アメルダ様の実家で、力のあるグリシア侯爵家の令嬢だからと、パトリックが説明してきたような記憶がある。


 アルは、ジュリアンさんに冷たい声で言った。


「なるほど。あれが、ジュリアンの婚約者候補という噂は本当だったのか……。おまえ、趣味が悪いな」


 ちょっと、なんて失礼なことを言うの、アル! 

 しかも、友達に向けるとは思えないほど、ものすごい冷たい目をしてるよ?

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