第36話 アルのお土産 10

「まさか! ちょっと理由があってお茶の誘いにのっただけだから!」


「理由ってなんだ。言ってみろ」

と、なんだか、犯罪者を問い詰めるようなアル。


 ジュリアンさんが、私をちらりと見た。

 一瞬、迷うように瞳がゆれた。

 

 あ、私が聞いたらダメなことなのかも。


「じゃあ、私は席を外すから、お二人でごゆっくり……」

と、席をたった瞬間、私の手がひっぱられた。


「ちょっと、アル?」


「行くな」

と、真剣な眼差し。


「あのね、アル。ちょっと、席を外すだけだよ?」 


「ダメだ。ここにいろ。1週間ぶりにライラに会えたのに、離れるのはもったいない。席を外すなら、ジュリアンのほうだ」


「はあ? それじゃ、せっかく来てくださったジュリアンさんに悪いよ」


 その時、グフッと変な声が……。

 また、ジュリアンさんが、ふきだしている。


「いやー、もう、がまんできない! 氷の王子と呼ばれているアルが、親鳥から離れないヒナみたいなんだけど!?」

と、笑い転げるジュリアンさん。


「氷の王子? アルが?」


 私が思わず繰り返すと、アルが射殺しそうな視線をジュリアンさんに向けた。

 あ、なるほど……。 


 そんなアルの視線を受けながらも、笑い続けるジュリアンさん。

 黒い煙もゆれている。

 

 強くない邪気なら、楽しんだり笑ったりしていると、さあーっと離れていくのは、よくあること。

 やはり邪気にとって、明るい気は苦手なんだと思う。


 でも、これだけ、強い邪気だと、こんなに笑い転げても、黒い煙がうすまることも、離れていく事もないんだね……。


 なんて観察していると、やっと、ジュリアンさんの笑いがおさまった。

 ジュリアンさんが、私にむかって優しい声で言った。


「ありがとう、ライラちゃん」


 いきなりお礼を言われて、とまどう私。

 すると、ジュリアンさんは、やわらかい笑みを浮かべたまま、話しはじめた。


「アルを疎ましいと思う人間は、王宮には沢山いてね。だから、アルは、いつだって隙をみせない。なのに、ライラちゃんには本心まるだし。こんなアルを見せてくれて、ほんと、ありがとね。ということで、改めて、アルともども末永くよろしく!」


 なんだか、ジュリアンさんの圧がすごいけど、アルの大切なお友達に信用してもらえるのは嬉しいな。


「こちらこそ、よろしくお願いします。ジュリアンさん」


「あ、そうだ。末永くよろしくするために、ぼくはライラちゃんの兄でいい?」


「……え?」


「俺はアルと親友で、これからも離れないつもり。つまり、ライラちゃんとも離れないことになるよね。だから、俺はライラちゃんの兄になればいいかなって。自分で言うのもなんだけど、頼りになるからね、俺。さあ、ライラちゃん、遠慮なく、俺のことをジュリアン兄様と呼んでみて?」


 一気にそう言うと、期待に満ちた目を向けてきたジュリアンさん。


「お断りだ! ライラに兄は不要だ。というか、気持ち悪いぞ、ジュリアン。ライラを見るな!」 

と、アルが叫んだ。

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