第34話 アルのお土産 8

 ジュリアンさんに厄介な邪気がついていることを知り、嬉しそうに私に笑いかけるアル。

 理由はおかしいけれど、その無邪気な笑顔に、私の方がドキドキしはじめた。


 ちょっと、その顔はずるい! 

 至近距離で、そんな笑顔を見せられたら、どうしていいか、わからないんだけど!?

 とりあえず、破壊力のある笑顔から目をそらす私。


 すると、コホンと咳ばらいが聞こえた。ジュリアンさんだ。


「ちょっと、おふたりさん。俺を忘れてない? 俺の右手が痛いって話から、なんで、そこだけ、そんな甘い空気が流れ始めるの? ライラちゃんなんて、顔が真っ赤だし。痛みが増すから、ひとりにしないでくれる?」


 え? 私の顔、真っ赤なの?  

 一気に恥ずかしくなって更に顔が熱くなってきた。あわてて、手で顔をあおぐ私。


「あー、悪い。ジュリアン。おまえのこと、すっかり忘れてた」


 そう言いながら、ジュリアンさんのほうを笑顔のまま振り返ったアル。

 ジュリアンさんが、ぎょっとしたように、目を見開いた。


「……アル、どうした? なんだ、その無邪気な笑顔は?!」


「無邪気な笑顔?」


「ああ、いい笑顔だ。いつもの取り繕った笑顔じゃなくて、心底嬉しそうだし。アルとは幼馴染だけど、こんな風に笑うアルを見たことはない。これもライラちゃんのおかげか。すごいな……」


 そう言って、私を感心したように見つめるジュリアンさん。

 とたんに、アルは笑顔を消し、鋭い視線でジュリアンさんをにらんだ。


「おい、そんなに見るな。ライラが減るだろ?」


 ジュリアンさんが、ぷはっとふきだした。


「減るって、なに? ほんと、アルの独占欲がすごくて笑える! 笑ったら手に響いて痛いのに笑える!」


 またもや、笑えるを連呼しながら、笑い転げるジュリアンさん。


 ジュリアンさんの笑いの波がおさまると、アルが、ジュリアンさんの右手を見ながら聞いた。


「で、その右手、一体いつから、痛いんだ?」


「10日くらい前かな。突然、右手が痛くなり動かしにくくなった。肩も重いし、特に手首から先が痛い。医師にも診てもらったが、理由はわからないって」

そう答えると、ジュリアンさんは、右手のジャケットの袖口をまくった。


「ほら、見た目は腫れてもいないし、なんの異常もないだろ?」


 いえ、異常はありまくりで、手首から先は真っ黒ですよ!

 

 と、心の中で叫ぶ私。

 だって、手首から先は、邪気の塊にしか見えない。


 ふと、パトリックのことが頭にうかんだ。

 やっぱり、こんな強い邪気、そのままにはできないよね。


 私の気持ちは決まった。


 ジュリアンさんに私の能力を話し、真っ向から吸い取る!

 そうしないと、この邪気は吸い取れないと思うから。

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