第32話 アルのお土産 6

 午後になり、アルのお友達が訪ねてきた。


「はじめまして。アルの親友でジュリアン・ロンバルディーです」


「遠いところ、ようこそいらっしゃいました。ライラ・シャンドリアと申します。お会いできて嬉しいです」

と、挨拶を返す私。


 次の瞬間、視界を遮るようにアルが私の顔をのぞきこんできた。


「ライラ。こいつの名前は覚えなくていい。必要ないからな」


「ちょっと、アル? なに、失礼なことを言ってるの?」


「いや、失礼なんかじゃない。それより、こいつを気にするな。もったいない」


 あ、また、変な「もったいない」の使い方をしてる!

 と思ったら、アルのお友達が、ぷっとふきだした。


「普段のアルと違いすぎて、おもしろすぎるんだけど? ……そうそう、俺のことは、気軽にジュリアンと呼んで。俺もライラちゃんって呼ばせてもらうから。ほら、アルの大事な人は、ぼくにとっても大事だから、仲良くしたいんだ。これからよろしくね~」


 筆頭公爵家のご子息とは思えないほど気さくというか、軽め……?

 でも、親しみやすい人でほっとした。

 アルのお友達とは私も仲良くなりたい。遠慮なく、ジュリアンさんと呼ばせてもらおう。


 が、何故か、そんなジュリアンさんをにらむアル。そんなアルを見て、更に笑ってしまうジュリアンさん。


 アルが硬質な美貌なら、ジュリアンさんは甘い美貌。醸し出す雰囲気も全然違うけれど、お互い信頼しきって素で接しているのが伝わってくる。


 アルに、仲の良いお友達がいて良かった!

 私は心の底から嬉しくなって、にっこり微笑んで言った。


「こちらこそよろしくお願いしますね、ジュリアンさん!」


「へえ……。アルがなかなか会わせてくれなかったけど……うん、なるほど。アルの気持ちもわかるな」


 好奇心いっぱいといった視線を私に向けたジュリアンさん。


 その途端、アルが私を隠すように前にでた。

 つまり、私の視界いっぱいに、アルの背中。


「ええと、アル、何をしてるの?」


 アルの背中に向かって聞いてみた。

 すると、顔だけ振り返って、アルが答えた。


「やっぱり、ライラをジュリアンには見せられない。もったいない」

と、真顔で言うアル。


 いやいや、見せられないって、なんで?


 ジュリアンさんが、またもや、ふきだした。


「アルが必死すぎて笑える。心がせますぎて笑える。気持ち悪すぎて笑える……」

と、笑えるを連発するジュリアンさん。


 アルの背後から、ジュリアンさんを見る。笑いすぎて涙がでたのか、ハンカチで目元をぬぐっていた。

 こちらを見ていない。今だわ……。

 私はジュリアンさんに聞こえないように、こっそりとアルに言った。


「ジュリアンさん、邪気がすごくついてるよ」


「そうか! 良かった!」

と、嬉しそうに声をあげたアル。


 アル、良かったはおかしいよ? 一応、邪気だからね?


 ジュリアンさんが笑うのをやめた。


「何が良かったんだ、アル?」


「おまえをライラに会わせて良かったと言ったんだ」


きっぱりと言い放つアルを、不審そうに見るジュリアンさん。


「アル、何を企んでる……?」


 さすが、アルの親友。鋭い!

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