第30話 アルのお土産 4

 庭仕事を終えた私たちは、ゆっくり話すため、応接室にむかった。


 ドアを開けた瞬間、思わず声がでた。


「うわあ! きれい!」


 華やかなグリーンのお花が沢山飾られていたから。


「母上からライラへの土産だ。花だけじゃなくて、ここにあるのもそうだ」

と、アルが手で示したテーブルには、リボンがかかった大きな箱や、バスケットに入ったお菓子などがあった。


「コリーヌ様から、こんなに沢山!?」


「ああ。それから、土産の説明も預かってきたから、読むぞ」


 アルはそう言って、ポケットから紙をとりだした。


「まず、グリーンの花は、隣国ベルダー国の小さな村の特産で、シャンという花だそうだ。その村というのは、先日、ライラへの手紙に書いた、『マーラが邪気を食べる生き物』と言い伝えられている村とのことだが……。ライラ、この説明でわかるのか?」


「あ、うん! コリーヌ様へのお手紙に、隣国の邪気からとれた変わった種のことを書いたの。ほら、アルも知ってるでしょ? 触ると痛くて、アルが心配して捨てろって言った種」


 アルが顔をしかめた。


「ああ、あの種か。ライラが痛がりながら、いろんな手袋をして触っていた種だろ。結局、マーラの毛の手袋で触ったら、何故か痛くなくなった、よくわからない種だったよな?」


「そう、それ! そのことをお手紙に書いたら、コリーヌ様がマーラについて学者さんからお話を聞かれたんですって。それで、すごく興味深い考察を書いてくださったんだよ!」


 お手紙を読んだ時の興奮がよみがえり、つい声が大きくなってしまった私。


「ずるいな、母上。俺には教えず、自分だけでライラを喜ばすなんて。まあ、いい。俺も隠し玉の土産がある」

と、つぶやくアル。


「アル? どうしたの?」


「いや、母上には負けない、そう思っただけだ。……じゃあ、続きを読むぞ。この花は、かつて野生のマーラが好んで食べていた花で、ライラの瞳の色に似たきれいなグリーンだから土産に選んだそうだ。それと、他には、マーラについて書かれた資料と、マーラの毛で編んだ帽子とマフラーがある。そのリボンがかかった箱に入ってる」


「嬉しい! あけていい!?」


「もちろん」


 ワクワクしながら、リボンをほどいて大きな箱をあける。

 すると、漆黒の帽子とマフラーがでてきた。

 マーラの毛は、光沢のある美しい黒色で、手触りは抜群。


 早速、帽子をかぶり、首にマフラーをまいた。


「あったかい!」

 

 アルが、まぶしそうに目を細めた。


「ライラのまぶしいくらいの金色の髪に漆黒は映えるな。よく似合ってる」


「ありがとう、アル。……あっ!」


「どうした、ライラ?」


「このマーラの毛の色って、アルの髪の色に似てるよね! アルの髪も漆黒で艶があって、きれいでしょ。つまり、この帽子をかぶれば、アルとおそろいみたいだね!」

と、嬉しくなって、アルに笑いかけた。

 

 その瞬間、アルは顔をしかめた。


「やっぱり、ジュリアンには見せたくない。ジュリアンが邪魔すぎる。だが、土産の為だ……」

と、なにやら、つぶやいている。


 やけに難しい顔をしてるけれど、大丈夫?

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