第29話 アルのお土産 3

 それから、いつもどおり、アルは庭仕事を手伝ってくれた。


「なあ、ライラ。このあたり、耕しといていいか?」


 先日、花が散って、浄化されるようにすべてが消えていった場所を指さしたアル。


「うん。お願い。次、そこに植えたいから」


 私は、ビンの中で出番を待っている種たちを思い浮かべながら答えた。


 アルは私に向かってうなずくと、自分用のくわを手に取った。

 気がつけば、アルの持ち込んだ庭用の道具は、私の持っている道具より多い。


 最初こそ、私のお願いしたことだけをするという感じだったアルだけれど、あっという間に、庭仕事についての知識は私を越えてしまったんだよね。


 適当な私と違って、勉強熱心なアル。

 もはや、庭については、師匠ともいえる。つい、「アル師匠」って呼んだら、めちゃめちゃ嫌そうな顔で、「やめろ」って注意されったっけ。


 そういえば、初めて出会った日のアルは、きれいな顔だけれど怖い王子様で、土すら触ったことがなさそうだった。

 なのに、今は、庭師としてものすごい成長を遂げている。

 きっとアルなら、立派な辺境伯兼庭師になるよね!


 手慣れた様子で、土を耕し始めたアルを見ながら、そんなことを考えていると、体の奥のほうが、ほんわりとあたたかくなった。自然と、顔がゆるんでしまう。


 なんというか、私、すごーく幸せよね。


 まさか、この庭をだれかと一緒に、楽しくお世話できるなんて、思いもしなかった。


 ふと、アルが手をとめて、私に言った。


「ライラ、なんで笑ってる? あ、もしかして、俺の土の耕し方、どこか変か?」


「ううん。私、アルと知りあえて、ほんと幸せだなあって、しみじみ思っただけ」

と、笑いながら言った瞬間、アルが困ったような顔をした。


「あー、全く……。いきなり、なんてことを言うんだ、ライラは。しかも、その顔……。やめてくれ」


「え? 私、なんか、変な顔してた!?」


 あわてて聞く私に、アルは首を横にふった。


「いや。ライラがかわいすぎて、衝撃を受けただけだ。庭仕事に集中してたから、完全に油断していた……」


「はあ?」


 とまどう私を見ながら、更にアルは、ぶつぶつと言い募る。


「あー、その顔もかわいい。というか、全部かわいい。……やっぱり、ジュリアンを呼ぶんじゃなかったな。こんなかわいいライラを見せたくない。あいつに見せるのは、やっぱり、もったいない。そうだ、ここへ着いた瞬間、王都へ送り返すか? だが、あいつは、ライラへのとっておきの土産だからな。なら、ジュリアンに目隠しをするか? それなら、あいつが、ライラを見ることはできないし、だが、あいつの邪気をライラは見られる。よし、それがいい」


「ちょっと、アル? なに、訳のわからないことを言ってるの?」


「いや、こっちの話。それより、俺の土産は後で届くから、楽しみにしといてくれ」


 そう言って、アルは意味ありげに微笑んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る