第28話 アルのお土産 2

 いつも、アルが辺境に到着するのは午後。

 王都を早朝に出発して会いに来てくれるから。

 

 でも、今は、まだ午前中だ。


「アル。今日は来るのがすごく早かったね?」


 私は不思議に思って聞いてみた。

 

「先日知らせたように、今日は、あとから土産……じゃなくて、俺の友人が来る。あいつがくる前に、ライラとの時間が欲しいと思って、昨晩、出発したんだ」


「ええ? じゃあ、眠ってないの? 大丈夫?」


「馬車の中で寝たから大丈夫だ。それより、急に友人が来ることになって悪かったな」


「ううん。アルのお友達に会うのは初めてだから少し緊張するけれど、嬉しいよ!」


 アルの切れ長の目が、スーッと細くなった。


「あいつに緊張なんか、しなくていい。ライラは微塵も気を使うな。ライラがもったいないからな」


「もったいないの使い方が、なんだか変だよ?」


「いや、ほんとは会わせたくないんだ。ライラがもったいないからな……」

と、更にもったいないを連呼するアル。


 やっぱり、アルは、もったいないの使い方が間違っているよね。

 が、そんなことより、花だ!


「アルの邪気からとれた種が咲いたんだよ! ほら、素敵でしょ?」

 

 私の声に反応した花が、いっせいに私のほうを向いた。

 うわあ、かわいいっ! 

 思わず、顔がにやけてしまう。


 が、肝心のアルの反応は真逆。

 何とも言えない顔で花を見ながら、言った。


「すごいインパクトだな……。こんな不気味な花が、俺についていた邪気から生まれたと思うと複雑な気持ちになる」


 せっかく咲いたのに、邪気をつけていた人がそんな反応じゃ、かわいそう!

 私は、この花の良さをアルに力説することにした。


「この花の魅力は、まず、色。グレーに赤い色が流れていて、マーブル模様みたいで、おしゃれだよね」


「マーブル模様? おしゃれ? いや、どう見ても触ってはいけないような、危険を感じる色だろ。なんというか、血が流れているみたいに見えるんだが」


「へえ、アルって独特な見方をするね」


「俺はごくごく普通だ。ライラのほうが独特だろ」


 アルが、あきれたように言った。


 いや、私は普通だと思う。


 それにしても、この子の良さが、まるで、アルに伝わらない。

 あっ、そうだ! もっとすごいチャームポイントがあったわ!


「じゃあ、これならどう? アルも、絶対に、かわいいと認めるわ。見てて」


 私はそう言うと、花に水をあげはじめた。


 さっきと同様、水にむかって、いっせいにのびてくる花。

 そして、ゴクゴクと飲む音が聞こえてきそうなほど、水をすいこみはじめた。


「ほら、美味しそうにお水を飲んでる様子が、かわいいでしょ?」


 私が言った途端、アルが目元をゆるめ、優しく微笑んだ。

 

「やった! さすがのアルも、ついに、この花のかわいさを認めたわね!」


 嬉しくて、大きな声をあげた私に、アルが無言で手を伸ばしてきた。

 そして、私の頭をなではじめた。


「いきなり、何するの!?」


「ライラには悪いが、その花のかわいさは全くわからない。でも、嬉しそうに水をやるライラがかわいいのはわかる。だから、ライラ。俺に構わず、その花を愛でてくれ。俺はライラを愛でるから」


 いや、それっておかしいよね? 

 と思ったけれど、私に甘く微笑みかけてくるアルを見たら、ぶわっと顔が熱くなった。ドキドキする。


 すると、アルがふっと笑った。


「ライラ、頬が真っ赤だ」


 アルの手が、頭から私の熱いほっぺたに移動して、するっとなでた。


 ドキドキを通り越して、バクバクしはじめた私の心臓。

 危険なのは、花の色じゃなくて、アルのほうだよね!?

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