第13話 王都の屋敷

 翌朝、馬車で王都の屋敷に向かい、午後に到着した。

 出迎えてくれたのは、執事のライアンだ。


 ライアンは、私が小さい頃、家庭教師をしてくれていたが、お父様に見込まれ、いつの間にか、王都の屋敷で執事になっていた。


「久しぶり、ライアン!」


「ライラお嬢様! 大きくなられて!」

 ライアンが、くしゃっと笑った。


 ちっとも変わらない笑顔にほっとする。

 久しぶりだから、色々話したかったけれど、ライアンはすぐに、お父様と仕事の話をはじめた。


 そして、私ものんびりさせてはもらえない。

 パーティーが明日だから、お母様から、注意事項を沢山言われ、明日の段取りを説明されて、やーっと解放された。


 庭のテーブルで、ぼんやりしていると、ライアンがやってきた。

 トレイに、二人分の飲み物をのせている。


「ライラお嬢様、少し、ご一緒してもよろしいでしょうか?」

と、丁寧に言うライアン。


 その口調に思わず笑ってしまった。


「もー、そんな丁寧な話し方じゃなくて、前みたいに話してよ。ライアン先生」


 私の言葉に、ライアンは、にんまりと微笑んだ。


「じゃあ、ライラお嬢様のお言葉に甘えて今だけ戻りましょうか? いいか、お嬢?」


「もちろん!」


「じゃあ、直球で聞くが、ここへ来てから、お嬢は気が重そうだな。どうかしたか?」

 そう言って、ライアンは私の目をじっと見てきた。


「はああ、ほんと、ライアンって変わってない。私の気持ちがよくわかるね?」


「いや、お嬢がわかりやすいだけだろ。それで、どうしたんだ? なんか、悩みがあるのか?」


「うーん……、まあ、明日のパーティに行きたくないなあって……」


「なんで、行きたくないんだ?」


「だって、ほら。公爵家のパーティーだよ。失礼なことしたらどうしよう、とかね」


「他には?」

と、更に聞いてくるライアン。


「…ないよ」


「嘘だな。お嬢は嘘をつく時、目をそらす」


「え、ほんと? 知らなかった!」


「大きくなったけれど、そういうとこ、ほんと、かわってないな、お嬢は」

そう言って、ライアンは優しく微笑んだ。


「ほら、気になってることがあるなら、なんでも聞くぞ。ほら、俺たちは、ライライ仲間なんだろ?」


「プッ…、なつかしい! 私が小さい頃、言ったんだよね? ライラのライと、ライアンのライで、ライライ仲間だねって」


「そうだ! ライライ仲間が相談にのるから言ってみろ」


「…そうだね。じゃあ、ひとつ聞くけど、仮にだよ、私の婚約が解消になったら、みんな困るかな?」


ライアンの目が一瞬ふっと細くなった。


「みんなとは誰のことだ?」


「お父様とお母様、それに、働いているみんな、…それと領民の人たち」


「全く困らない。お嬢がこの婚約が嫌なら、やめたっていい」


「でも、私が言いだすと、お金を沢山払わないといけないんでしょ?」

 

 私がそう言うと、ライアンが驚いたように目を見開いた。


「誰からそんなことを聞いた?」


 パトリックからだけど、言えないよね。


「うーん、小説とかで読んだからかなあ…」

と、濁す。


「あ、また、目をそらしたな。…まあ、いい。まず、お嬢の婚約は、利害関係で結ばれたものではない。だから、金を払わないといけないのは、一方的に失礼なことをしたり、約束をやぶった場合だ。きちんと理由を伝えれば、なんとでもなる。もしや、お嬢は婚約をやめたいのか?」

と、ライアンが真剣な顔で聞いてきた。


ライアンに言ってしまいたい。けれど、迷惑をかけるのは嫌だ。


「ん-、そんなことないよ。ちょっと不安になっただけ…」

私はあいまいに答えた。


ライアンは私の目をしっかり見て言った。


「お嬢は、婚約解消になったら、みんなが困るか聞いたが、もし、嫌々、結婚して一番困るのはお嬢だ。誰でもない、お嬢が結婚するんだからな。そこをしっかり考えろ。それと、ライライ仲間はいつでも、どんな相談にものる。秘密も守る。そのことをお忘れなく」

そう言って、ライアンが小さい頃のように、私の頭をくしゃくしゃっとなでた。

 

思わず、涙がでそうになった。


「ありがとう、ライアン先生」


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