第14話 パーティーへ

 そして、ついにパーティー当日。


 久々の王都でのパーティーに、朝からお母様が張り切っている。メイドさんたちも忙しそうで、屋敷内が活気づく。気の重い私とは真逆だよね…。


 まずは、着替え。

 今回着るドレスは、お母様の見立てだ。私の瞳の色にあわせてグリーンのドレスで、グラデーションになっている。

 軽やかなドレスだし、植物につつまれてるみたいなので、これは好き!


 そして、次は髪の毛。なんでも、王都で評判の髪結い師さんを、ライアンが手を尽くして呼んでくれたみたい。


 が、私の髪は、やわらかく、ふわふわで、くりくりのくせ毛だ。扱いにくい。

 なので、お出かけの時は、ひろがらないように、まとめて、結いあげてもらっていた。

 今回もそんな感じをイメージしていたら、鏡を見て驚いた。

 くりくりが、うまーくいかされ、毛先は巻かれ、いつもより大人っぽく仕上がっている。


 魔法なの?!


「こんなに素敵になるなんて、すごいっ!」

と、おしゃれに興味のない私でも、その出来栄えに驚いて声をあげた。


「お嬢様の髪は、いい感じにくせがあって、アレンジしやすかったです。まぶしいほどの美しい金髪なので、おろした感じにしました。やりがいがありましたわ!」

と、髪結い師さんが微笑んだ。


 そして、軽くお化粧までしてくれた。鏡を見れば、いつもの私より、ぐっと大人になった私がいた。なんだか、嬉しい!


 やっと、準備が終わった頃には、もうくたくた。

 なのに、パーティーは今から。

 

 気が重い…。出かけてもいないけれど、帰りたい……。

 なにより、パトリックに会いたくない……。

 急にとりやめにならないかな……。


 ネガティブな思いが次々とわきあがってくる。

 が、残念ながら出発の時間が来て、両親と一緒に馬車で公爵家に向かった。


 公爵家のお屋敷に来たのは初めてだけれど、大きなお屋敷で、びっくりした。

 招待客も多そう。お屋敷の前には、ずらりと馬車が並んでいる。


 そして、お屋敷に入ると、そこは、きらびやかな人たちであふれかえっていた。

 が、同時に、黒い煙をつけた人たちも、あちこちにいる。


 光と闇のコントラストがすごい!


 帰るまでに、珍しい花の種がいっぱい取れそう。

 あ! でも、このドレス、ポケットがない!

 まあ、小さなバッグを持っているので、それに、つめこむしかないね。


 でも、どんな種が取れるだろうと思うと、ちょっとワクワクしてきた。

 パーティーだから、目立つことはできないけれど、できるだけ吸い取りたい! 

 もちろん、許可なく勝手に吸い取るけれど、吸い取られた人は体調が少し良くなるだけだから、別にいいよね? 

 

 その時、公爵夫妻とパトリックが私たちのほうへとやってきた。

 公爵様が、お父様の顔を見て、嬉しそうに微笑んだ。


「久しぶりだな。今日は遠いところを来てくれてありがとう」


「こちらこそ、招待ありがとう。久々のパーティーだ。楽しませてもらうよ」

と、答えるお父様も嬉しそうだ。


 パトリックと同じ髪の色をした優しそうな女性が公爵夫人だ。


「今日はお招きいただきまして、ありがとうございます」

と、お母様。私も続いて、同じようなご挨拶をする。


「こちらこそ、来てくださってありがとうございます。ライラちゃんも、ありがとう。それにしても、久しぶりに会ったら、ライラちゃんが、とってもきれいになっていて驚いたわ!」

 公爵夫人がにこにこしながら、言った。


 公爵夫妻にお会いするのは、何度目かだけれど、お二人とも本当に感じの良い、お優しい方々なのよね……。

 なのに、パトリックは、なんで、あんな感じになっちゃったんだろう?

 

 で、その、パトリックといえば……。

 パーティー用の衣装は似合っているけれど、今日も、しっかり、黒い煙を身にまとっている。パトリックの胸のあたりから黒い煙が流れ出ているし、首のあたりにまきついている黒い煙もある。


 それにひきかえ、公爵夫妻には、ほとんど、黒い煙は見当たらない。

 話している間にも、お二人に、ふわっと黒い煙が飛んでくるけれど、すぐに消えていく。軽い邪気なのかな? 

 これだけ人が集まっていたら、妬みとか、向けられそうだもんね。


 しかし、それよりも、パトリックの首の黒い煙が気になる。

 真っ黒で濃いから、何重にも、首に巻きついているように見えるんだよね……。

 さすがに心配だから、今日中にとれるようがんばってみよう。 


 なんてことを考えていたら、パトリックが声をかけてきた。


「ライラ、今日は来てくれてありがとう」


「こちらこそ、お招きいただき、ありがとう」

と、返事をする。


「あの……ライラ。とてもきれいだよ」


 恥ずかしそうにそう言って、微笑むパトリック。


「え……? あ、ありがとう…」


あわてて答えたけれど、ちょっとびっくりした。 

だって、パトリックの目が優しく見えるから。頬も少し赤く染まってる。

いつもと全然違うんだけど?


ちょっとだけ、以前の優しかったパトリックを思い出した。


いやいや、でも、今までの私への言動を思い出せば、……うん、やっぱり、演技かも。

ご両親の前だしね。

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