第12話 植物みたい

 私の話を聞き終わると、何か考えている様子のアル。


「なあ、ライラ。さっき、屋敷の前で去っていく馬車を見たんだが、クールド公爵家の馬車か?」

と、アルが聞いてきた。


「よく、わかったね! そうだよ」


「とういうことは、公爵家のパトリックが婚約者なんだな?」


「パトリックを知ってるの?」


 アルはうなずいた。


「公爵家で同じ年だからな。幼い頃から顔をあわす機会はあった。でも、パトリックには、三歳年上の兄のルドルフがいるだろ?」


「うん、今、留学してるよね?」


「ああ、そうだ。俺はルドルフと気があって、よくしゃべってたけど、パトリックは大人しくて、あまりしゃべった記憶がない。ルドルフがよく気にかけてたな」


「えっ? アルって、パトリックと同じ年だっけ?」


 それを聞いて、あからさまに、アルはため息をついた。


「ライラは、ほんとに俺に興味がないな…。俺、こう見えて、結構、令嬢たちに人気があるんだぞ」

と、私に顔を近づけてくる。


 艶のある漆黒の髪。整った凛々しい顔立ち。特に、切れ長の涼やかな目は、サファイアみたいな紫色できれい。


 うん、非の打ち所がない。


「わかるよ。アル、すごく、かっこいいもんね!」

と、力強く同意する。


 とたんに、アルが、うっすらと頬を赤くした。


「はああ、なんだそれ?! そんな素直に肯定されると、自分で言った俺が恥ずかしいだろ?! やめろよ!」


 もー、褒めたら褒めたで、やめろとは! なに、それ?! わかった、もう褒めません!


 アルは、ふっと真面目な顔になった。


「ということは、さっきライラから聞いた話が、あのパトリックってことか…。そんな不気味な種が、短時間で山ほどできるほど、邪気をひっつけてるのか…。しかも、自分からその邪気がでているのは心配だな…。

ライラの話だと、学園に入って変わったんだろ? つまり、学園でなんかあったか…」


「パトリックって、学園ではどんな感じなの?」


「同じ学年だから顔を見かけることはあるが、普通に、爽やかな感じだけどな。といっても、特に話しをするような仲でもないから、見た目だけの印象だ。…俺も気になるし、ちょっと学園での様子を調べてみる」


「何かわかったら、教えて。…あと、それと…、パトリックのこと、両親には言ってないの。心配かけたくないから。だから、今は、まだ、誰にも言わないでくれるかな…?」


 アルは、少し目を見開いたあと、フッと微笑んだ。


「わかった。誰にも言わない。…が、ライラ。一人でがまんするな。辺境伯も辺境伯夫人も相談したら、どうすればいいか一緒に考えてくれると思うぞ」


「うーん、そうなんだけど。だからこそ、余計に、心配かけたくないんだよね…」


 歯切れの悪い私に、アルが言った。


「じゃあ、これからは、一人で背負い込まず、なんでも俺に言え! ライラはまだ、14歳の子どもだろ? 立派な大人の俺を頼れ!」 

そう言って、自慢げに胸をはるアル。そのしぐさが、子どもっぽいんだけど…。


 なんだかおかしくて、体の力がぬけた。そして、一気に楽になった。

 植物に癒されたときと同じだわ。


「ありがとう、アル! アルって、この花たちみたいだね!」

私は、目の前の花壇を手で示した。


「おい。俺は、こんな不気味じゃないが?」

と、不服そうに言うアル。


 そんなアルを見て、あたたかい気持ちになる。

 聞いてくれる人がいるだけで、こんなに楽になるんだな…。



 それから、すぐ、学園がはじまり、アルは王都へ帰っていった。

 そして、元気になったコリーヌ様も一緒に帰っていった。


 不気味だと言いながらも、私の庭が気に入ったのか、ほぼ毎日、アルは、私の庭に遊びに来ていた。

 それに、私もアルのお屋敷で、コリーヌ様とお茶をしたりしていたから、二人がいなくなって寂しい…。


 次の休暇に、また二人で来るらしいけど、まだ先だもんね。


 そして、それだけではなく、気分があがらないのは、私が王都へ行く日がついに明日になってしまったから。


 あれから、お父様に、何度も公爵家のパーティーにでたくないと言ったのに、聞き入れてもらえなかった。

 しかも、私が行くなら、お母さまも行くと言い出し、久々の家族旅行になり、両親は楽しそうだ。

 パーティーさえなければ、私も楽しめるのにな…。


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