第4話 アル

裏庭の奥、目立たないところに、私専用の庭がある。

そこに、黒い煙から生まれ変わった花の種を植えている。

というのも、どの種も、不思議な花を咲かせるから、お客様が来ても目に触れないところへ植えないといけない。


今日も、その庭で、植物の世話をしていると、アルがやってきた。


出会ってから、毎日通ってくるアルは、すっかりこの家に馴染んでいる。

もちろん、裏庭の奥に自由に来れるのは、お父様が許可しているから。

それほど、お父様はアルを信用している。


まあ、それは私も同じ。

知り合って間もないけれど、毎日話していたら人柄はわかる。

アルが、私の変な能力を利用するかもなんて、みじんも考えないもんね。


アルは、私のそばにくるなり、眉間にしわを寄せて、聞いてきた。


「なあ、ライラ。昨日まで、なかったと思うが、その青い花に黄色い水玉がある花はなんだ?」


「よくぞ聞いてくれました! つぼみになって2か月。ようやく、今日、ひらいたんだよ! きれいでしょう!」

私は満面の笑みで、やっと咲いた花をアルに自慢した。


「いや、そんな、いい笑顔で言われてもな……。どう見ても、不気味すぎるだろ? すごい毒がありそうだが、大丈夫なのか?」

と、アルが心配そうに聞いてきた。


「大丈夫だよ! 今まで、もっと、もっと変わった花もあったけど、一度だって、かぶれたことはないからね。それに、もともと、私の手の中で、花の種に生まれ変わったんだよ? 絶対に毒はない。と言っても、さすがに、食べたことはないけどね」

と、アルに返事をしながら、もし、実がなったりしたら、食べてみたいなあ…と想像してしまう。


「おい、ライラ! 変なことは考えるな! 絶対に食べるなよ? たとえ、実がなってもだぞ!」

アルが真剣な顔で言ってきた。


おっと、びっくり! いつもながら、私の考えをすぐに見抜くアル。

本当、鋭いよね……。


「うん、わかってる。まあ、今は食べないけど……」


「今は、じゃない! 未来永劫、そんな訳の分からないものを食べるな! いいか?  ちょっと一口、とかもダメだぞ。とにかく、種であろうが、花であろうが、実であろうが、人の邪気から生まれ変わったものを絶対に口にするな!」

と、しつこいくらいに念を押してきた。


「うん、わかった……。あのね、アル。正直、最初、アルに会った時は、なんだか態度がえらそうだし、面倒そうだから、近づかないでおこうと思ったよ? でも、私が間違えてた。アルって心配性なんだね。しかも、すごい過保護! 執事のジュードに似ているんだけど」


「はあ?! そんなこと思ってたのか!? 失礼な奴だな。……まあ、ライラは、そんな特殊な能力を持ってるのに、うかつだし、あぶなっかしいからな。助けてもらった手前、ほっとけないだろ」


「私はしっかりしてるよ? 14歳になったし、大人のレディーだもんね」

私は胸をはってみせた。


アルは、盛大にため息をついた。


「顔に土をつけたレディーを初めて見た。ほら、ここついてるぞ」

と、自分の頬のあたりを指差した。


私はあわてて、手でこする。


「ああ……、更に汚れがひろがってる!」

と、アルは言いながら、私に近づいた。


そして、上着のポケットから、まっしろいハンカチをだして、私の顔を丁寧にふいてくれた。


「ほら、とれたぞ」


うん、やっぱり、アルは、ジュードみたいだよね……。

だって、王子様というより乳母みたいだもん。


でも、それを言ったら怒りそうだから、お礼だけ言っておこう。


「ありがとうね、アル!」


私は、アルの目をまっすぐ見て、にっこり笑った。

すると、アルはあわてたように、紫色の瞳をそらした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る