第3話 出会い

挨拶も終わったし、怖くて面倒そうな王子様から、さっさと逃げようとした私。


「ところでライラ嬢は、おいくつですか?」

と、王子様がお父様に聞いている。


「ライラは14歳になるのですが、いつまでたっても、幼い子どもみたいに外で走り回っておりましてね…」


いつものお小言だ。


「じゃあ、ライラ嬢は、ぼくの2歳年下だね」

私にむかって、意味ありげに微笑みかけてきた。


なんだろう、悪寒がする…。


そう思ったら、王子様は、お父様にむかって言った。


「知りあいもいないので、年の近いライラ嬢に、この近くを案内してもらってもいいでしょうか? もちろん、護衛もつけますので」



え?! なんで、私?

ちょっと、お父様、断って! この王子様、怖いから!


私の心の叫びもむなしく、お父様は快く即答した。


「もちろんですよ、アルフォンス王子殿下。ライラ、ご案内してさしあげなさい」


うっ…。

うらめしい目で王子様を見る。


「ライラ嬢、よろしくね」

と、爽やかに微笑まれたが、やっぱり、目が笑っていない…。


お父様に促されて、私と王子様、二人で応接室からでた。


「じゃあ、とりあえず、この近所だけ案内しますね」

私が言うと、冷たい声が返ってきた。


「案内なんてどうでもいい。そんなの嘘にきまってるだろ。それより、さっきは逃げられたが、話を聞かせろ。俺は、以前毒を盛られたせいで、たまに、あんな風に動けなくなるんだ。長年治らなかったのに、なんで、あの一瞬できれいに治ったんだ? おまえ、俺に何をした?!」

と、鋭い目つきで、上から私を見おろしてくる王子様。


やっぱり、怖い…。さっきと全然違うんだけど…?


結局、近所を案内しているふりをして、歩きながら、私の能力を洗いざらい吐かされた。


人から受けた邪気をつけていると、黒い煙のように見えること。

その黒い煙を、なぜか、私の手が吸い取れること。そして、吸い取ると、その人の不調が良くなること。

そして、吸い取った邪気が、なぜか、私の手のひらで花の種に変わること。


「多分ですけど、毒の後遺症じゃなくて、邪気のせいだったと思います。私は病は治せませんから…。あのう、私の変な能力は、一応、家族と信用のおける使用人たちしか知らないことなんです。秘密にしといてくださいね…」

私は、おそるおそる言った。


「まあな。でも、おまえ、本当に警戒心がないな。俺みたいに知らない奴を、あんなに簡単に治したら、すぐさま、ばれるだろう。そもそも、隠せてないよな? それに、そんな大事な秘密、ぺらぺらしゃべるもんじゃないぞ。利用されるからな」

王子様が、あきれたように私に言った。


「無理やり聞き出したのは、王子様ですよね?」

思わず、むっとして言い返した私。


「は?」

紫色の瞳が、ぎらっと光る。


本当に、この人、王子様なの?! 

見た目はすごい美形で、まさに王子様だけど、中身が怖すぎるよ…。


と、怯えていたら、王子様の顔がふっとゆるんだ。


「なんてな…。脅して吐かせて悪かった。俺を陥れようとする者が多いから、疑うことが癖になってるんだ。さっきは、意味がわからず、変な術でもかけられたかと焦った。もし、そうなら、急ぎ対処しないといけない。だから、何が何でも確認したかった。…ずっと、苦しんでいたんだ…。俺のことを助けてくれて、本当に感謝する。秘密は絶対に守るから安心してくれ。…それと王子様じゃない。俺のことは、アルフォンスと呼べ」

と、恥ずかしそうに言った王子様。


「アルフォンス…王子様」


「じゃなくて、アルフォンスだ」

と、顔を近づけて、命令する。


真顔の美形って迫力があって、圧がすごい…。


「アルフォン…ニュ…様」


思わず、かんでしまった。


その瞬間、王子様はクスッと笑った。

さっき、お父様の前で見せていたような、うさんくさい笑みじゃなくて、素で笑っているみたい。


そっちのほうが、ずっといいのに!


「じゃあ、特別にアルでいい。アルと呼べ。わかったな、ライラ」



こうして、私とアルは出会った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る