第2話 なんで?

私は、自分の部屋に戻ると、透明の瓶の中に、さっきの種を入れた。

瓶の中は、種が半分くらい入っている。

しかも、どの種も、ひとつとして同じものはない。


黒い煙を吸いとると、なぜか、手のひらから、花の種が生まれてくる。

理由は全くわからない。


ぶよぶよしてたり、ピンク色に黒い線が入っていたり、文字が浮き上がってたり。

どれも、ちょっとだけ、不気味な種が多い。


でも、私には、全部、かわいいんだよね!

だって、自分の手のひらで、生まれ変わったんだよ?


もとが黒い煙だろうが、どれだけ不気味だろうが関係ない!


「随分、たまったな。今度はどれを植えようかな?」


私が瓶をかかえて、一人で、にやにやしていると、ドアをノックする音がした。


「はーい、どうぞー!」

声をかけると、入ってきたのは執事のジュードだ。


代々うちの執事の家系で、ジュードも、何十年も執事として務めている。

お父様と幼馴染で同い年のジュードは、私のもう一人の父親、…というよりは、小さいころから私の面倒を細やかにみてくれている乳母みたいな存在だ。


「ライラ様、辺境伯様がお呼びでございます。…って、なんで、また、そんなに草まみれなんですか?!」


あ、さっき、草の中を走ったからね。


ジュードが、あわてて、メイドに指示をだし、素早く着替えさせられた。

どうやら急いだ用みたい。

有無を言わせず、ジュードに応接室へと連行される。


ジュードがドアをノックして、声をかけた。

「ライラ様をお連れしました」


「入れ」

お父様の声。


あれ、お母様までいる。どうしたのかな…?


と、思ったら、テーブルをはさんで、両親の前に座っているのは、一人の少年。

私からは背中だけが見えた。


「お客様だ。ライラ、こっちへ来て、ご挨拶しなさい」

お父様が言った。


とりあえず、テーブルの近くにいき、カーテシーをする。


「はじめまして。シャンドリア辺境伯の娘、ライラと申します」

と、ご挨拶をした。


すると、その少年がこっちを向いた。


えええっ! なんで?! さっきの少年じゃない?!


思わず、危機を感じて後ずさってしまう。


「さきほどは、どうもありがとう。おかげで助かりました」

少年は、そう言って、きれいな笑みを見せた。


ええと、誰…?

さっきの怖い感じとは、まるで違うんだけど…?


「おや、もう、うちの娘と会っておられたのですか?」

と、お父様。


少年は、爽やかに微笑んで言った。


「ええ、さきほど、この近くで道に迷っていたら、案内してくれたんです」


いや、迷っていないよね? 

当然、案内もしていないよね? 


つまり、あの具合の悪かったことは、言うなってことなのかな…?

だって、目が笑っていないもんね…。


「そうでしたか? うちの娘は、本当にお転婆で、このあたりを走りまわってるんです」

あきれたように話すお父様。


というか、この少年は一体、誰なんだろう?

両親がそろって出迎えるぐらいだから、相当に身分が高いんだろうけれど…。


すると、私の疑問を察したように、少年が私の目を見て言った。


「自己紹介が遅くなりました。ぼくは、第三王子でアルフォンスです。よろしくね、ライラ嬢」

と、微笑んだ。


ええっ、王子様?! 


「アルフォンス王子殿下は、お母上のコリーヌ様のご療養のため、隣のお屋敷に滞在されるそうだ」

お父様が補足してくれた。


隣のあの豪邸か…。

よし、絶対に近寄らないでおこう!

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